研究会ブログ

2015年09月11日 Fri. Sep. 11. 2015

『WIRED』日本版編集長の若林恵氏のお話をお伺いしました

9月10日に『WIRED』日本版編集長の若林恵氏のお話をお伺いしましたので、レポートいたします。

 

「『WIRED』というのは何の雑誌かよく分からないという印象があると思いますが……」と前置きした上で、その理由からお話くださいました。

『WIRED』は93年にアメリカで創刊されました。

それ以前に『Whole Earth Catalog』という様々なデジタル製品を掲載しているカタログがあり、そのコンセプトは資本主義に頼らなくても自力で生きていけるような製品を商品するヒッピーの流れを汲むものでした。その思想に共感し、生まれたのが『WIRED』です。


冒頭の『WIRED』が何の雑誌なのか漠然としているという定義は実は様々な企業において起こってきていることで、その最たる例がGoogleやAppleです。両者とも単に検索エンジンやスマートフォンを作る会社では最早無く、「デジタル」をテコにあらゆる領域に進出。

 

今や「デジタル」は生活のほぼ全ての部分に介入しており、その結果起こったのは既存のチャンネルの崩壊です。

若林氏は専門分野の一つでもある音楽を例に用い、ジャズ・クラシック・J-pop・海外ロックなどのカテゴリーの分別が今やマーケティング上の意味を為さなくなったことを指摘。かつては流通大手が作ったカテゴリーを参考にすることでしかリスナーは自分の好みの音楽を知ることができなかった状況はインターネットによって一変。

音楽ジャンルというチャンネルではなく、アーティストごとの「点」で音楽を聴くリスナーが増加し、結果的にターゲッティングというマーケティング手法がほぼ不可能なものとなった。

 

これは先に挙げたGoogleやAppleという企業の業態が多岐に及んでいること、デジタルデバイスの最新状態を伝える『WIRED』が何の雑誌かよく分からなくなっていること、ひいては「業界」というカテゴリーが徐々に意味をなさなくなってきたことにもリンクしています。

従来のマーケティングでは「ターゲット」が商品に対してお金を払う瞬間にしか注目していなかったのに対し、今後は例えば服に関するビジネスであれば服を買い瞬間のみではなく「服のことを考えている時間」全てに対し事業者はコミットしていくことができる。

例えばH&Mは古着の回収サービスを始めましたが、服を買う瞬間だけではなくて「服を捨てようと思う瞬間」にも着目しているということ。

 

故に、「うちはメーカーだから食べ物の提供はしない」「うちはサービス業だからものは作らない」というような従来の業界的な先入観がどんどん崩壊しつつあります。

20年前のタワーレコードの方に、20年後のライバルがパソコンメーカーであるAppleなどと私たちが教えてあげることができたとしても、それを信じる人など誰も居ないでしょう。

 

「今まで私たちは地図を作ろうと必死になってきました」と若林氏。

しかし、今はデジタルデバイスの力によって以前よりも業界や社会の変化が加速されている。つまり「地図を作ってもその間に地形が変わってしまう」。

そこで、「地図はいらない。性能のいいコンパスだけを持っていればいい」と提言。地形を把握し、今後10年の道程を描こうとしてもそのプランどおりの進行は非常に困難。ならば、最低限自分がどこに居てどこに向かおうとしているのかという方向のみを把握していれば迷うことはない。

 

考えてから走るのではなく、走りながら考えるということでしょうか。予測が困難な時代ではありますが、デジタルがもたらした革新は個人であっても組織に拠らずに生きていくことを容易にした、ということにあると思います。

その思想を今から約半世紀も前に提唱していた『Whole Earth Catalog』には驚きを禁じえませんし、その直系である『WIRED』はヒッピー的な生き方を助けてくれる雑誌という読み方もできると感じました。

研究会ブログ
バックナンバー

▲ページTOPに戻る

お問い合わせ・お申し込み

お問い合わせ・お申し込み

TEL:03-5457-3024  FAX:03-5457-3049

担当:池  bunkaken@jlds.co.jp