研究会ブログ

2015年05月 1日 Fri. May. 01. 2015

矢嶋孝敏氏著『きものの森』

着物の「やまと」代表取締役会長矢嶋孝敏氏が出版された『きものの森 作ること 売ること 着ることの経営論』をご紹介します。

 

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『きものの森』という寓話的な題名には矢嶋氏の理念が込められています。

 

「私がやろうとしてきたことは、旧ビジネスモデルから新ビジネスモデルへの転換であった。(中略)“きものの森”という概念は、森のようにたくさんの業態や流通チャネル、企業、ブランドがあり、いくつもの素材やアイテム、着用シーン、着方もある、ということをイメージしている」(まえがきより)

 

人間には無くてはならない衣食住の一角を担う衣料に携わる人間として、きものを森のような生態系の一部へと組み込んでいくというのがその狙いです。

伝統という価値に甘んじることなく、川が流れている脇に木が生え、その種を鳥が運び、また木が生えていくような循環のシステムを育たい。

 

着物において川、鳥、木の役割を果たすのはサブタイトルでも示されているように「作る人」「売る人」「着る人」であると言えます。

この三者のサイクルがうまくいって、ようやくそれは生態系のようなシステムを作ることができます。

 

具体的に言えば、

人が作ったものに対する敬意を持つ

着物を格式ばったやり方だけではなく「楽しく」着れるようにするにはどうすればいいのかを考える、

きものに関する売る側と買う側の情報格差を考え、顧客が正しくその価値を判断できるように売る。

 

この三位一体の行為がきものを中心として自然と循環するシステムがあれば、それは「きものの森」として自然と生活者の間に根付くようになる。

森が育てば、あとは勝手に自生してくれそうなものですが、それでもやはりその森を管理する人は必要。

という訳で、文化的な産業に必須なのは後継経営者の育成です。後継「経営者」が決まれば、その人のために必要な「技術者」の採用や育成が行われるようになるので、経営者の重要性は技術者に勝るそうです。

大島紬、ミンサー帯、紅茶染めなどの成功事例が幾つか紹介され、伝統技術に携わる人々の経営の機知と取り組みが伝わってきます。

 

文化産業に携わる経営者の著書ということで、本書は技術論よりも経営論に力が割かれています。常に次世代と未来のことを考える。それが本書における経営の根幹だと感じました。

 

「自ら困難とも思える仕事を、未来の為に、次の世代の為に、自らに課し、市場と顧客を創造していくのが経営者だ。そのエネルギーがなくなったら即刻、身を引くべきだろうし、私もそうする」(あとがきより)

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