研究会ブログ

2015年06月 5日 Fri. Jun. 05. 2015

舘野泉 ピアノリサイタル レポート

6月3日に東京オペラシティ コンサートホールにて開催されたピアニスト舘野泉さんのリサイタルに行ってきました。

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先週、AERAで「左手のピアニスト」として紹介され、その事例からIMAGINASで「カウンター・クリエイション」というキーワードが生まれました。

 

舘野泉さんは1960年に東京芸大を主席で卒業後、フィンランドに渡って演奏活動を続け、リリースされたCD/LPは130枚以上にのぼる日本を代表するピアニストです。しかし、2002年にコンサートを終えた舞台上で脳卒中により倒れ、右半身の機能を失ってしまいます。

ピアニストとしては絶望的な状態に追いやられましたが、不屈の精神で左手の練習を重ね、「左手のピアニスト」として2004年に復活。演奏活動を再開します。

 

この日のプログラムは、舘野氏のソロに続き、クラリネットの二宮和子氏、チェロの多井智紀氏、小山実稚恵氏との連弾、柴田暦氏による詩の朗読とチェロがそれぞれ舘野氏と協演するという形で進んでいきました。

 

このリサイタルの白眉は、吉松隆氏作曲『KENJI…宮沢賢治によせる 語り、左手ピアノ、チェロのための世界初演』です。

宮沢賢治のいくつかの作品を舘野氏のピアノをバックに朗読されます。

妹を亡くした際の詩や、『銀河鉄道』において主人公が友人カンパネルラと別れるシーンなど、「別れ」を強調した部分がピックアップされます。

 

別れに対する哀しみと寂寞感は、賢治の透明で力強い言語で表現されれば一種の恐怖すら感じさせます。

しかし、「別れ」というどうしようもない現実に対し、音楽は非現実的な力を持っていると思います。

音楽も詩も含めて芸術というものは、現実を目の前にして何の力も持ちませんが、それでも現実とは全く別の何かが心に作用します。

更に言えば、舘野氏が右手との「別れ」というどうしようもない現実に対して打開策を見出したように、時には現実すらも超えていく力を持っている。

そんな芸術の力がここに示されていました。

 

左手の技巧のみで小さな音から大きな強い音まで、舘野氏はその音色に鮮やかな変化をつけていきます。その表情は本当に変幻自在で、まるでピアノと自分の位置が伸び縮みしているのかと疑ってしまうほどに豊かな強弱が持ち味です。

また、4人の異なる芸術家とコラボレーションしたことで、舘野氏の異なる側面がうまく引き出されていて全く別々の楽しみ方ができました。

 

現代音楽の傾向として、作曲者が自分の実験精神や技量を示そうとするあまり、

あまりにも前衛的になりすぎて意味の解らない曲になってしまうことが多々あります。

ところが、舘野氏がこの日演奏した曲はすべて非常に聴きやすく、すんなりと耳に入ってきます。

作曲家の方々の技量や音楽的センスもさることながら、自らの技術を誇示するのではなく、舘野氏のためを思って純粋な気持ちで書かれたということが大きいと思います。

 

観客の拍手が鳴り止むことは無かったのですが、残念ながらアンコールは無し。

静謐な余韻を残してリサイタルは幕を閉じました。

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