研究会ブログ

2016年09月30日 Fri. Sep. 30. 2016

古市憲寿著『保育園義務教育化』

11月17日の文化経済研究会でご講演いただく社会学者の古市憲寿氏。

今回は、15年発行のご著書『保育園義務教育化』をご紹介します。

 

■「お母さん」に厳しい社会

「子どもを保育園に入れるために一時離婚した夫婦まで居るというのだ。認可保育園では親が独身のほうが優先的に入所できることが多いからだ」(はじめに より)

 

2014年で待機児童数は公式発表で4万3000人ですが、専門家の試算によれば潜在的な待機児童は少なくとも100万人以上という推計があるそうです。

そこで本書で古市氏が提言するのが、タイトルにもなっている「保育園義務教育化」です。


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子どもが6歳になって小学校に入るまで、保育園の見つからないお母さんは実質的にブランクを強いられてしまう。

これが社会的に大きな損失であることは誰もが周知するところですが、実際はほぼ何の対策もないというのが現状。

今春、保育園確保のあまりの困難に「日本死ね!」と題されたブログエントリーが大きな話題になりましたが、少子化を嘆く割にはお粗末過ぎる待機児童政策にはこう言いたくなる気持ちも頷けます。

 

古市氏の保育園義務教育化案は、保育園を保育施設ではなく、教育施設としての文脈で捉えることにより、国が無料で保育園を整備し、誰もが安心して子どもを預けられるようになることがその趣旨です。

すでにハンガリーでは14年から開始され、フランスでも導入が検討され、徐々に世界的な潮流になりつつあるそうです。

 

■日本の「一人っ子政策」は世界一?

厚生労働省の調査によると6割以上の子育て世帯が「幼稚園や保育園にかかる経費」を負担に感じていることが分かっています。

1ヶ月の平均保育寮は月2万5000円程度、中には月5万円以上掛けている人もおり、病児保育などの費用も重なれば「働いて稼いだお金が全て育児に消えていく」ということもありえます。

「日本は労働力不足といいながら、女性が専業主婦になったほうがいいと思えるような制度をわざわざ構築してきたのだ」と言い、中国のそれよりも優秀な「1人っ子政策」、あるいは「0っ子政策」であると古市氏。

 

保育園義務教育化が実現すれば、当然保育費用は相当低下します。

また、メリットは子育てする親の側のみならず、子どもにおいても乳幼児期に良質な保育園に通えることは今後に人生で必要な力を得ることができます。それは、意欲、忍耐力、自制心、想像力など広い意味で生きていくために必要な「非認知能力」であると古市氏。

アメリカで行われてきた様々な実験と調査が、「良質な保育園に行った子どもは人生の成功者になる可能性が高い」という事実を示していることもその証左です。

 

■本を出す意味

本書の特徴は、明らかに「提言書」であるということに尽きます。

平易な文体ですが、保育園義務教育化が必要であるという証拠と前提を明らかにし、それに対して予想される反論を一つひとつ潰していきつつ、では具体的にどのようなところに着地させるべきかというところまできっちりと落とし込んでいます。

 

古市氏の著書は『絶望な国の幸福な若者』や『だから日本はズレている』に代表されるように、様々なデータに本人の肌感覚も交えつつ日本の現状を怜悧に描き出すタイプの正に「社会学者」然としたものが多かった印象がありました。

もちろん、その中でもある程度の展望や方向付けを示してはいるのですが、本書ではそれが大まかな展望ではなく、細やかな具体策にまで踏み込んでいます。

 

文学、娯楽本、実用書、専門書など様々な用途において書籍は出版されていますが、社会に対する提言書として、本書のような書籍を発行することも、出版が持つ大きな意義であると感じました。

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