研究会ブログ

2016年05月 2日 Mon. May. 02. 2016

村上隆著『芸術起業論』

村上隆著『芸術起業論』を読みました。

0105.jpg

現代アーティスト村上隆が自らの芸術論を語った一冊で、組織運営や人材育成についても書かれているためビジネス書としても自己啓発本としても読むことができます。

 

村上隆の基本的戦略は

 

・ターゲットが誰で、彼らがどういうルールで動いているのか徹底的に知り尽くすこと

・自分の価値がどのような文脈に結びついているか綿密にストーリー作りをすること

・ターゲット向けに自分のプレゼンをすること

 

この3段階に分析できると思います。

 

■市場分析する

アート市場は開かれているようでいて、実は非常に閉じられた世界です。

その証拠に、平気で億という単位のお金が動く業界の割に、巨額のお金が投じられた作品そのものには「何故これが何億円もするの?」と首を傾げたくなるような物が多いです。

現代アートはそれが生まれた文脈を知らなければ楽しめないという側面もありますが、更に言えばそもそも作品のターゲット以外の人間には価値が伝わりづらいということがあるように思います。

「欧米で芸術作品を制作する上での不文律は、『作品を通じて世界芸術史での文脈を作ること』」。

重視されるのは主観的な情動よりも作品にまつわるコンセプトの部分であり、

「アートが分かる自分の知的さ」を誇示するために富豪たちは何億円ものお金を投じます。

 

■ストーリーを作る

古代エジプトから脈々と続いてきた美術の物語が自分にどう流れ込み、更に自分を通してどのような物語がこの後に展開していくのか。

村上隆は、狩野派や北斎など日本画家からの自分の系譜を結び付けて語るのは勿論、その気になれば邪馬台国から遡って自分の美術と関連付けることも可能と言います。

更に、いわゆるジャポニズムと評されていた浮世絵などはあくまで西洋美術の周縁であり、一種の「変り種」として紹介されていましたが、村上隆は自分の作品は単なる東洋民族の一ジャンルではなく、美術の物語のメインストリームとなるのだと主張します。

人間の視覚に近い一点透視画法を用いて描かれていた西洋美術ですが、カメラやそれに続くデジタル技術の出現によって多視点的なモノの見方が可能になった現代において、多視点的に描かれていた日本画のほうが寧ろ正当であり、その系譜を受け継ぐ自分の作品こそが今後の美術の方向性を決定付けるというのがその根拠です。

 

■プレゼンする

「自分の作品の精神性を説明する」という非常に困難で、敬遠されがちな行為を村上隆は非常に大事にしています。先にも書いたように、アートの主戦場である欧米では作品が持つ背景が非常に大事にされているからです。

日本の文化を大切にし、かと言ってそれを欧米人向けにおもねった様な作品ではなく、日本を日本のまま翻訳する必要があります。

そのためには自分の思いや文脈を英語に翻訳する翻訳家や、美術館における作品の配置などに徹底的にこだわります。

西洋人に日本の文化や芸術を「こういうのもありますよ」という「サブ」的な意味で紹介するのではなく、日本こそが「メイン」なのだというプレゼンで成功を収めたのが村上隆であると言えるでしょう。

 

以上の方法論を支えるのは作品のクオリティです。

自らの作品を100年単位の鑑賞と歴史の淘汰に耐えうるものにするために、芸術家には正に常軌を逸して作品に没頭することが求められ、日々を「怒り」で満たして地獄の中でのた打ち回るような覚悟があると言います。

何かと批判が多い村上隆ですが、彼が持つ膨大なエネルギーとやり場の無い怒りが伝わってくる一冊でした。

研究会ブログ
バックナンバー

▲ページTOPに戻る

お問い合わせ・お申し込み

お問い合わせ・お申し込み

TEL:03-5457-3048  FAX:03-5457-3049

担当:長谷川  bunkaken@jlds.co.jp