研究会ブログ

2014年07月18日 Fri. Jul. 18. 2014

書評⑤~岸見 一郎・古賀 史健共著『嫌われる勇気』

岸見 一郎、古賀 史健の共著、『嫌われる勇気』を読みました。

自己啓発書の大家であるデール・カーネギーも参考にしていたというアルフレッド・アドラーの心理学を扱った書籍で、去年末に出版されて以来、重版となり大きな話題を呼んでいます。

 

イントロダクションでは、

「世界はシンプル。人は変われる。誰もが幸福になれる」という持論をもつ哲人のもとに、劣等感に苦しみながら全く正反対の思想を持ち彼を論破しようとする青年がやってきます。

プラトンの著作がソクラテスと他の哲学者達との対話から構成されているのに倣って、この本でも2人の対話のみが描かれています。

 

「誰もが幸福になれる」という哲人に対し、青年は対人関係や劣等感に苦しむ我々現代人の代わりにあらゆる疑問をぶつけます。

哲人は「本当にそうだろうか」「こう考えたらどうだろう」などとのらりくらりとそれら(我々現代人の)疑問をかわしながら、我々の思考を巧みに追い込んでいきます。

 

青年は、「私は自分が大きらいで劣等感だらけの人間だ。人はいつでも変われるという貴方の考えには納得できない」と主張します。彼は容姿にも恵まれず、学歴もない。スポーツも得意でなく、何のとりえも無いからです。もしも自分がもっと才能に恵まれていたら、自分はもっと幸福になれていたはずなのに、これら負の要因を一生背負っていかなければならない僕は幸福になりようが無い、と。

 

哲人は、それは典型的なフロイトの原因論の考え方だ、それに固執している限り確かに貴方は幸福にはなれないだろうと言います。

 

心理学の巨人、ジークムント・フロイトの学説ではコンプレックスを過去の因果に見出します。

例えば、コップの水を見るたびにひきつけを起こしてしまう女性が居る。彼女は全くその原因に心当たりが無い。しかし、フロイトは実際に彼女との対話によって精神分析を試み、彼女が幼い頃にコップに入ったアルコールを誤飲して意識を失ったことがトラウマとなり、今になってそれが症状として表れているのだと指摘します。

全ては原因と過去によって決められている、フロイトの学説にはある種そんな風に読めてしまうところがあります。

 

しかし、「原因論」と呼ばれるこのフロイトの学説と、アドラーの「目的論」は真逆です。

 

アドラーによると、ある状態に人があるのは、過去に原因があるのではなく当人がそうあることを望んでいるからだそうです。

 

そんな馬鹿なことは受け入れられない、誰が自分が不幸であることを望むものか、と青年は食って掛かります。

 

しかし…と哲人は言います。例えば自分に学歴が無いから認められない、成功しないという人は、逆に言えば学歴があれば自分は成功したという自負を自分の中に抱いているということ。学歴が無いということに全ての責任を負わせてしまえば自分は戦わずに済む。つまり学歴が無い人は学歴が無いことを自ら望んでいる、と彼は続ける。

 

この後も議論は延々と続くのですが、あまり要約しまっても対話の妙意が損なわれてしまうので、ここからはこの本が現代で何故ここまで受け入れられたのかを考えたい。

 

『嫌われる勇気』というタイトルがフックとなっていることは言うまでないと思います。このタイトルはいわゆる「承認欲求」を否定しています。実際この書籍の中でも承認欲求を捨てよと哲人が青年に諭すシーンが出てきます。

 

承認欲求を否定しているタイトルの本が売れる。裏を返せば現代の日本人は承認欲求に振り回されているということです。

あるいは、もともと日本には承認欲求が強い土壌があったとも言えます。滅私奉公や宮仕えなどという言葉が生まれたのは、他者の欲求を満たすことで自分の承認欲求を満たしたいという気持ちがとても強いからと考えられます。

 

しかし、同時に日本人にはあまり目立ちたくないという気質もある。Twitterの利用者に比べ、Facebookの普及率が他国より低いのは実名制という敷居があるからだと言われています。

また、ここ数年でのSNSの「炎上」問題も、ネット上でも余計なことはしないほうがいいという風潮を強めました。

 

他者に認められたい。でもあまり目立ちたくもない。

『嫌われる勇気』というのはそのジレンマを上手く解消する言葉として受け入れられたのだと思います。他者に嫌われる勇気を持ったほうがいいのか、他者のために生きるのがいいのか。そのような問いはとてもありふれていますが、重要なのは我々がなぜそのような問いに直面しているのかを考えることだと思います。AかBかという2択を付きつけられたとき、その前提事態を疑ってみるのも手でしょう。

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