研究会ブログ

2015年09月25日 Fri. Sep. 25. 2015

文化経済2015.9月講演レポート②/三國清三氏

第79回文化経済研究会セミナー(2015.9.17開催)の様子をお届けいたします。

第2部は「オテル・ドゥ・ミクニ」オーナーシェフの三國清三氏。

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三國氏のお生まれは北海道の増毛。現在に至るまで三國氏の味を支えているのはこの漁村で海産物を豊富に食べることができたからだそう。

少年時代のある日、三國氏は黒いソースの掛かっている物体を食べ衝撃を受けました。

それが「ハンバーグ」だと知った時が、三國氏がフランス料理の道を志した瞬間でした。

 

「もしその時に食べたものが寿司だったら寿司職人になっていました(笑)」

 

とおっしゃるぐらいですから、人生とはちょっとした要素によって大きく左右されるものですね。

そこで北海道のグランドホテルの門を叩き、皿洗いのパートタイムとして働くことを許された三國氏でしたが、北海道だけでは飽き足らず、今度は東京・帝国ホテルの門を叩き、そこでも洗い場から働くことを許されました。

 

18歳から20歳までの洗い場で働きましたが、20歳で挫折感を感じ、増毛に帰ろうとしていた矢先に駐スイス日本大使館の料理長に抜擢されました。

海外に渡ってからは大使館勤務の傍ら三ツ星レストランで修行を重ねます。ヨーロッパに行く前に、大使館に三國氏を推薦した当時の村上料理長は

 

「貰えるお金は、全て自己投資に使え」

 

と仰ったそう。

美味しい物を食べたり、美術館で本物を観たりすることで人間としてのセンスを磨けということが後の10年、20年の資質や可能性に繫がってくる。

おそらく、三國氏の味覚に対するセンスは増毛で培われたベースのみならず、村上料理長の教えを忠実に守って西洋文化の本場であるヨーロッパで様々な「本物」に触れたことで磨かれたのではないでしょうか。

 

10年弱のヨーロッパ生活を終えて帰国し、四谷に「オテル・ドゥ・ミクニ」をオープン。

それが日本におけるフランス料理文化の分水嶺になったと思うと、少年時代の三國氏がハンバーグを食べたことが、我々の今の食生活・文化にも少なからず影響を与えているということです。

 

先般、「うま味」が、酸味・甘味・塩味・苦味の4基本味に加わり5基本味となりましたが、今後、注目すべき味として三國氏は「油味(ゆみ)」と「カルシウム」を挙げられました。

確かに、油には独特の風味や我々をひきつけるものがありますし、料理などの出汁も魚や動物の骨から取っています。


何かを楽しむための大きな方法は、判断基準を増やす・物差しを沢山持つ、ということだと思います。

美術品などでも単に綺麗かそうでないかという判断だけではなく、精密さや文化的な成熟、制作背景なども知っていたほうが楽しみ方が増えるのと同じです。

 

世界的に「うま味」が認められたということは、食に対する楽しみ方の基準が増えたということを意味しています。

三國氏は「油味」、「カルシウム」なども味の要素として加わるだろうとお話されていました。今後も食文化の深みがますます増していくことが期待できそうです。

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