研究会ブログ

2016年10月 7日 Fri. Oct. 07. 2016

首都高とモノレール"負の遺産" 古市憲寿氏が物申す

■負の遺産を振り返る

問題が山積している2020年オリンピックの象徴となっているのは、故ザハ・ハディド氏がデザインをし、その後再考となった新国立競技場です。

翻って、丹下健三建築の国立代々木競技場は50年前の日本の勢いと、古き良きセンスの象徴として語られ、誰もが

「丹下さんが生きていればなぁ……」

とその知恵を惜しみます。

競技場と並んでロゴを巡っても、騒動だらけの今回のロゴ案を亀倉雄策のそれと比べて同じように彼がまだ生きていればと嘆く向きが多くあります。


今回の五輪は問題だらけである一方、64年の五輪は日本中のデザインやセンス、インフラ、経済など多くの遺産を産み我々にとっての大きな一歩だった。

これが世論の大半だと思いますが、そんな風潮に一石を投じる古市憲寿氏の意見が文藝春秋10月号に掲載されていました。

「首都高とモノレール“負の遺産”」と題された記事は、64年五輪を懐古的に神格化するのではなく、そのマイナス面もしっかりと直視しようという内容です。


■64年東京五輪という聖域

「 ヨーロッパに行くと、車道も歩道も広い街路樹のある通り(かっこよくいうとアベニュー)をよく見る。こんな素敵な場所が東京にも、もっとあればいいのにと思ったことはないだろうか。実は昔の東京には、そんな余裕のあるアベニューがあったのだ。

(中略)

だが、現在の裏参道に「公園道路」の面影を探すことは難しい。なぜなら、首都高4号線建設に際して、乗馬道をぶっ壊し、さらに並木も一部伐採してしまったからである。」


高度経済成長によって日本は経済的な豊かさを得た代わりに、かつて持っていた国家としての文化や景観、余裕を失ったという意見は多くありますが、高度経済成長の契機の一つとなった64年五輪はその批判を負うことはあまりありません。

まるで聖域のような扱いを受けている64年五輪ですが、おそらくこれは誰が意図してそうなっているというわけではなく、高度経済成長、バブルの崩壊、そして2つのオリンピックを通して語るときに自然と形成された聖域だと思います。

(特に、丹下健三、亀倉雄策という2人の巨人の存在感が大きいデザイン界、建築界でその傾向が顕著ではないでしょうか)


古市氏の今回の記事は今一度冷静になって64年五輪の問題点も洗いなおさないと、2020年の五輪においても我々はまた同じような過ちを繰り返してしまうということを思い出させるものです。


■東海道新幹線=新国立競技場?

「いたずらに(64年)東京オリンピックを賛美するのも危険だと思うのだ。東京オリンピックが開催された1960年代は日本の高度経済成長期に重なる。(中略)なぜそのような経済成長が可能になったのか。一つは「人口ボーナス」の影響だ。元気な働き手が多く、子どもや高齢者が相対的に少ない時期のことである。(中略)要は、東京オリンピックがなくても、東京を含めた日本は同じように高度成長をしていたはずだ」


寧ろ、急場の間に合わせで作られた首都高やモノレールによってガタガタになった東京の景観も踏まえれば、かえってオリンピックが無かった方がより良い東京が出来たのではないかとも、古市氏は結論付けられています。


また、特に興味を引いて示唆的だったのが以下の指摘です。


「首都高や東京モノレールに比べると、オリンピックに合わせて整備された交通インフラの中では、東海道新幹線は「成功」した事例と言っていいだろう。それまで7時間弱かかっていた東京と大阪間をわずか3時間で結ぶ高速鉄道が誕生したのだ。しかし当時のメディアを見る限り、開通する前の東海道新幹線は、首都高やモノレールよりも批判の対象になっていた」


用地買収の難しさやそれにまつわる悲喜こもごもがあり、その費用だけで600億円、総工費は、3800億円で1725億円と目されていた予算の実に倍。


「ザハの新国立競技場の時もそうだったが、きちんと予算を立てられないのは日本のお家芸らしい」と古市氏が皮肉るように、当時の東海道新幹線と今回のザハ案はどうやら同じような扱いだったようです。

喉もと過ぎればなんとやらで、月日が経てば綺麗な思い出だけが残り、利権とバッシングに塗れた建造物も半世紀も経てば「遺産」になるようです。

古市氏の今回の記事は50年前の資料を紹介し、アイロニカルに現代のオリンピックと対比するものでした。今から50年後、この俯瞰的な記事が「50年前の世論」として取り上げられる日もくるかもしれません。

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