研究会ブログ

2015年03月 2日 Mon. Mar. 02. 2015

東京都現代美術館「菅木志雄展」

先般ご講演いただいた長谷川祐子氏がチーフキュレーターを務めます

東京都現代美術館の「菅木志雄展」に行って参りました。そのレポートです。

 

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彼は1960年代後半から70年代にかけて台頭した「もの派」と呼ばれるアーティストの中心的人物です。

展示の冒頭では菅木志雄氏の言葉が書かれていたのでここに引用します。

 

「ものはつねに<現在>である。ものの現在性は意識しなければ見えないものである。だから、ものを見ようとする時、ものの現在性を直視しなければならない。ものの隠れたリアリティを見ることは世界の成り立ちを知ることである」。

 

写真を見れば分かるように、木や石や枝などが展示されています。

と、こう書いてしまうと物凄く面白くないように聞こえますが全くそんなことはないんですよ。

 

最初に引用した菅木志雄氏の言葉に照らし合わせれば、この展示によって「現在性」というものが何らかの形で表れているのだと考えられます。

「現在」とは何でしょうか。

それは「今」という意味と「在る」という意味をあわせもって「今ここにある」ということだと言えると思います。次に現在性とは「今ここにあるという性質」ですね。

 

別の言葉に置き換えると、例えば「吸水」は「水を吸い取ること」を表わし、「吸水性」は「水を吸い取るという性質」を表わしているのと同じです。

 

「ものはつねに<現在>である」という菅木志雄氏の言葉は、「ものはつねに<今ここにある>」と言い換えることが可能です。

しかし「ものの現在性は意識しなければ見えないもの」という言葉が続きます。「ものの「今ここにあるという性質」は意識しなければ見えない」と言っているのです。

 

例えばスポンジであれば、その「吸水性」は意識しなくても用途に応じて使っていれば捉えられます。しかしスポンジという「もの」の「現在性(今ここにあるという性質)」を我々は一々意識したりしませんね。

意識しようと思っても、なかなか難しいことかもしれません。

 

例えば今すぐにでも試していただきたいのですが、今これを読むのに使っているディスプレイの「現在性」を皆さんは意識することができますか?

画面を通じて情報を伝えるというディスプレイの実際の用途を離れてディスプレイの「現在性」だけを直視するというのは至難の業ではないでしょうか。

 

しかし、ディスプレイは「現在性」によって「現在」している。つまり「現在性」こそディスプレイのもっとも根幹を成している性質なのです。ディスプレイだけではなく、もっと言えば我々だってそうですね。我々は「現在性」があるからこそ「現在」できています。

にも関わらず「現在性」という性質は見えにくい。

 

それは既に引用している菅木志雄氏の台詞の通りです。つまり「ものの現在性は意識しなければ見えないもの」、です。

万物を存在させているもっとも重要な性質は、意識しなければ見えないんですね。

 

そこで、菅木志雄氏の展示は「ものの現在性を意識させる」試みであると言えるでしょう。ただでさえ用途の明確ではない木片、石、枝。それらが美術館という場所に招きいれられると更にその用途は不明瞭になっていく。

つまりそれらの素材はその性質から来る用途から解き放たれ、どんどん「今ここにある」ということ以外の性質を奪われていきます。

 

この展示のサブタイトル「置かれた潜在性」。普段は用途によって覆い隠されている「存在性」を「潜在性」と言い表し、それが置かれることで露になっている。

 

古くから人間は回りにあるものに「意味」を見出そうとしてきました。

まわりにある「もの」がどのような性質をもっているのか、それによって世界から「存在性」はどんどん覆い隠されていきます。

「今ここにあるという性質」は、その他の諸々の性質が上に重なり合うことで見えなくなっていく。

例えばハサミであれば、「よく切れるかどうか」が最も重要な機能であり、それを果たすための「硬さ」「刃の鋭さ」などのみが主に見られ、「今ここにある」ということは大前提中の大前提としてわざわざ誰もそこに注目などしません。

 

それは人間が意識を持って、世界にあらゆる意味づけをしてきてからは非常に困難であったこと。

そういう意味で、菅木志雄展は人類がようやく到達した「存在性」への回帰であると言えるかもしれません。

 

むき出しの存在性に出会いたい方は是非東京都現代美術館へ。3月22日まで開催中です。

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