研究会ブログ

文化経済2018.6月 講演レポート②/齋藤 精一氏

 

 

 

 

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6月7日、カヤックの柳澤氏に続いて登壇されたライゾマティクスの齋藤精一氏。

ライゾマティクスはリサーチ、デザイン、アーキテクチャーを軸に、インタラクティブな広告や先鋭的なアート作品で注目されるクリエイター集団であり、アートと建築、広告、街づくりなど、分野を横断しながら誰もが考え付かなかった斬新なコンテンツを世界に提示し続けています。

豊富な人生経験を織り交ぜながら、新たな建築概念と都市の在り方を提唱すべく活動する氏の最先端のクリエイティビティを学びました。

 

◾️キリギリスの時代に必要な「非分野主義」

今回の登壇で昨今の時代性を表した言葉に「アリとキリギリス」という言葉がありました。

20世紀はアリの時代、21世紀をキリギリスの時代と表現しており、前者は今まで培ってきた技術や知識をそのまま使える時代、後者はそれらを刷新しなければならない時代を表しています。

氏は自らを「キリギリスに囲まれて育ったアリ」と語り、ライゾマティクスを立ち上げてからはキリギリスのような”超社会不適合者”が集まったと笑いながら話します。

 

今の時代のクリエイティブとは一つの分野に突出するのではなく「分野を横断してつくる非分野主義が重要」と語る氏。

産業構造の複雑化により、一つの事業にも都市開発や規制や運営、ビットコインなど多くの分野が関連してきます。それに対応できるように、ライゾマティクスは一つの領域ではなく、スタッフがやりたいと考える領域を全て挑戦させ、キリギリス的な発想をできる限りリスペクトするように心がけて来ました。

時には社員が無断で高額な機材を購入し、カードの保証会社から連絡が来たこともあったそうですが、それだけ社員の「ものをつくりたい」という意識が高いようです。

 

◾️アートとコマーシャルの役割

ライゾマティクスはお金にならない投資案件である「アート」と広告や開発など、クライアントから報酬をもらう「コマーシャル」の2つの軸で事業を行っています。

アートはクライアントの要求によっては制約が多く、自分たちの表現を出せないため、「これを作ったら面白そう」というアイデアをすぐに自社保有のアトリエで制作しマネタイズします。

一方でコマーシャル事業では、単に案件を受発注するだけでなく、時にはクライアントの中に入り、部署間の意見の相違をまとめたり、商品開発のアドバイスも行なったりと一歩踏み込んだ対応を行なっています。

そしてユニークなプロモーションを行うために、行政や自治体に規制緩和を求めたり、新しいブランドづくりを提案するなど、様々な実証実験を行なって来ました。

 

しかし最近はアートとコマーシャルの境界線がなくなって来ていると感じているようです。

2014年に企業広告の案件で、鈴鹿サーキットでベストタイムを出した故アイルトン・セナのドライビングを光と音で再現するプロモーションを行いました。

このプロモーションはカンヌライオンズ2014で最高賞を受賞し、広告として大きく評価されたのですが、現場で見守っていた制作スタッフたちがその美しいプロモーションを見て、涙を流したそうです。

その時に「広告表現としていいものをつくるのは当たり前。

重要なのは一緒に作っている人のモチベーションをどう上げるか」ということにも気づかされたそうです。

 

◾️「ものをつくる」人間として

氏はプロダクション集団と呼ばれることが大嫌いだと語ります。

創業時代からプロダクションにとどまらず、プランニング、ディレクション、プロデュース、クリエイティブディレクション、エージェンシーを段階的に目指していました。

そのために大企業から案件を受注するだけでなく、ベンチャー企業と共同して新しい開発や事業を投資案件として進めているそうです。

 

縦割り構造の日本では「建築家は単なる図面を起こすだけの人」という認識が多くあると氏は言います。
様々な企業や人と接することで多くの情報ソースを得ることができます。

ものをつくる人間はそのソースを生かして、世の中の文化や事象、興味関心や人の営みを俯瞰して、類似しがちな業界をどう変えていくか、というアクションを起こしていかなければならない。

単なるバックキャストではなく、どうしたら世界をよくしていけるか、未来の絵を提示し、それを現実にするために、果敢に「ものづくり」を行なっているそうです。

 

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着飾らない氏の話に多くの方が聞き入っていましたが、最後に「テクノロジーは魔法ではない」という言葉が印象的でした。

テクノロジーはあくまで道具であり、テクノロジーを使えば人が集まる、お金が儲かることには繋がりません。

技術発展の速度は加速度的に上がりますが、テクノロジーをどうを使うか、そしてそれによって世の中がどう変わるのか、という意味をしっかりと考える必要があると締めくくっていました。

 

 

 

文化経済2018.6月 講演レポート①/柳澤 大輔氏

 

 

 

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6月7日の文化経済研究会には、面白法人カヤックの代表取締役CEO 柳澤大輔氏にご登壇いただきました。

学生時代の友人2人と面白法人カヤックを創設。

IT企業には珍しく鎌倉に本社を置き、Webサービスやアプリなど、ユニークな独自コンテンツを多数発信されています。

"みんなを巻き込んで世の中を面白くする"という目標のもと、生み出すコンテンツだけでなく、既存の人事制度やワークスタイルを覆す取り組みが注目を集めます。

新しい企業スタイルに挑戦し続ける氏の未来の視座を学びました。

 

◾️人としての幸せをつくる組織戦略

 

カヤックを起業するにあたっては面白い規則のある会社にしたいと考えていたようです。

遅刻をすると一日全身タイツで仕事をする、給料はサイコロを振って決めるなど、そこで働く人が面白く生きる、幸せになるためにはどうしたらいいかを考え、実践してきました。

 

カヤックでは会社を「何をするか」「どこでするか」「誰とするか」というスキームで考察。

会社の役割は事業戦略を考え、利益を出すことを求められがちですが、これは会社の成長を考えただけに過ぎず、「人としての幸せ」を考えた時には「どこでするか」「誰とするか」という組織戦略が重要になります。

社員をどの事業に当てはめるのではなく、一緒にいて楽しい人と仕事をする。

この「価値観が合う」という根本的な考え方が、事業と関係ないところでも重要になると語っていました。

 

今の若者は会社に入れば幸せになる時代では無いという認識があります。

会社の人材として働く「所属」よりも、自分のやりたいことをするための起業、すなわち自己実現を目指す「存在」に価値を見出す人が増えている中、「どこで誰とするか」という価値観を企業は大切にすべきであると語ります。

しかしこの考え方は中々理解されなかったそうです。

 

◾️面白い文化とは

 

氏は「まずは自分たちが面白がる。その後周囲からも面白い人と言われる。最後に誰かの人生を面白くする」と考え、これが面白法人である理由と説きます。

しかし最初の「自分たちが面白がる」ことが一番難しいと語ります。

 

そこでカヤックは、「面白い」という独特な企業文化を個々人の評価へとつながる仕組みとして、リーダーの選出を明快にしました。

楽しそうに働いている人しかリーダーにせず、自分が楽しく働けていないと下に就く人も楽しく働けないからだそうです。

そうした価値観が似た人を組み合わせ、楽しく働けるチームを編成。定期的に面談も行いチーム内で楽しくなさそうな人がいれば、すぐにチームから外し、楽しく仕事ができる環境を再編成します。

コンテンツが不発に終わったら、すぐに新しいものを作り出す。この圧倒的なスピード感がカヤックと社員の成長を促しました。

 

◾️「つくる人」を増やす

 

面白いアイデアを出すために、ブレインストーミングの重要性を氏は語ります。その中で重要なポイントは2つになります。

①仲間のアイデアに乗る。仲間の話をしっかり聞くことで、多くのアイデアが生まれてきます。

②数を多く出す。質を問うのではなく数を出す。これにより脳の改革が進み、性格がポジティブ=「つくる人」になります。

この2つを意識することで、自分では閃かないアイデアが生まれてくる好循環になるようです。

本質的なアイデアを出すにはじっくりと頭を使い、アイデアの数を出すには仲間とブレインストーミングを行う。

氏はこのやり方を通じて「つくる人」を増やしていきたいと語ります。

 

 

他者との比較ではなく、自分が楽しく働くことが第一に考えられる「カヤック」。

従来の企業像とは異なるお話に、会場の参加者からも新しい刺激をもらえたとのコメントが数多く寄せられました。

自分自身の幸せとは何かを考えた時に、こうした柔軟な価値観が今の企業に求められているのでしょう。

 


 

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次回セミナー講師 齋藤精一氏が描く「建築とアートの融合」



6月7日(木)開催、第94回文化経済研究会では、株式会社ライゾマティクス代表取締役 齋藤精一氏を講師にお招きします。

 

齋藤氏は1975年生まれ。東京理科大学、コロンビア大学にて建築デザインを学び、2000年にニューヨークで活動を開始。06年、最先端テクノロジーを駆使したメディアアートを製作する「ライゾマティクス」を日本国内で設立しました。建築分野で培ったロジカルな思考を元にしながら、誰もが考えつかなかったような斬新なクリエティブをグローバルに展開しています。

 

以下に、同社の代表的なクリエイティブをご紹介いたします。

 

 

 

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ライゾマティクス ホームページより転載

■au by KDDI CM「驚きを、常識に。FULL CONTROL TOKYO」

 

東京都港区の増上寺で開催された、世界最大規模のプロジェクションマッピングです。auのテレビCM「FULL CONTROL」の世界観を再現したもので、専用アプリ「ODOROKI」を用いることで、イベントの観客がステージや照明の操作に、リアルタイムで「参加」出来るという催し。当日の模様はWEBで全世界に配信された他、その後改めてauのCMに使用されました。

 

KDDI(「驚きを、常識に。FULL CONTROL TOKYO」au by KDDI / 2012 ©︎au by KDDI)



 

 

 

■ミラノ国際博覧会 日本館

 

2015年に開催されたミラノ国際博覧会日本館の展示では、齋藤氏がクリエイティブディレクターを担当。最先端技術を駆使して生み出された、鮮やかな日本のイメージ像が印象的です。こちらは同博覧会のデザイン部門で金賞を受賞し、5年ごとに行われる大規模万博としては日本初の快挙を達成しました。

 


 

 

■渋谷ヒカリエ デジタルサイネージ

 

渋谷ヒカリエ内に設置された、曲線が特徴的なデジタルサイネージ。ヒカリエに足を運んだことがある方なら、ご覧になったことがあるかもしれません。ニュースや気象情報を始め、季節のイベント情報、アーティストの作品配信など、その形状を活かしたコンテンツが印象的に展開されています。ライゾマティクスはコンテンツについてデザインを担いました。

 

 


 

■Nike RISE「House of Mamba」

 

こちらは全面にLEDを埋め込んだバスケットボールのコート。コート上を縦横無尽に動き回る選手の動きをリアルタイムに読み取り、そこにシンクロさせた多種多様なヴィジュアルを映し出すというものです。既存のスポーツの概念を大きく拡張し、更なるエンターテインメント性を付加する試みと言えるでしょう。

 

 

2020年の東京オリンピック開催に向け、都市の在り方が改めて問われる潮流にあるなか、建築的概念を根底に持つライゾマティクスの動向は、これからますます注目されるはずです。次回研究会セミナー(6/7開催)では、齋藤氏率いるライゾマティクスが建築とアートを融合することで目指す地平と、そして訪れる未来の様相について学んでまいります。


 

Forbes JAPAN表紙を飾った柳澤大輔氏が次回セミナーに登壇!


6月7日(木)開催、第94回文化経済研究会では、面白法人カヤック代表取締役CEO 柳澤大輔氏を講師にお招きします。

 

柳澤氏はForbes JAPAN(2017年6月号)の「日本を元気にする88人」のグランプリにも輝き、同誌の表紙を飾るなど、「新たな企業のスタイル」に挑戦するその取り組みによって大きな注目を集めています。

 

氏は1974年、香港生まれ。慶応義塾大を経て、98年に仲間2人とカヤックを設立。代表取締役に就任したのは24歳のことでした。以来、ユニークなWebサービスやアプリなどを世に送り出す「面白法人」として、「つくる人を増やす」を理念に活動。その拠点はWeb系企業としては珍しく、鎌倉に置かれています。

 

面白法人を名乗る同社ですが、そこには「まずは、自分たちが面白がろう。」「つぎに、周囲からも面白い人と言われよう。」「そして、誰かの人生を面白くしよう。」という3段階の思いが込められています。その「面白い」という要素の根源を、柳澤氏は「オリジナルである、他に見たことがない、類するものがない」ユニークさのことだと定義。その表れとして、同社は非常にユニークな取り組みを次々と世に発信しています。以下にその代表的なものをご紹介します。

 

まずは「サイコロ給」。毎月サイコロを振り「基本給×(サイコロの出目)%」が給与に上乗せされる、世界でも類を見ないカヤック独自の給与システムです。人が人を評価することの不確定性を逆手に取り、それならばいっそ天に任せてしまおうというもの。評価というシビアな要素と切っても切れない「仕事」だからこそ、こうした「遊び」の要素を取り入れることが面白法人の核になっていると、氏は述べています。

 

カヤックが世に送り出すアイデアやコンテンツは、全て「ブレスト」(ブレインストーミング)形式の会議で生み出されています。ここで同社が重視している点が、他人のアイデアに乗るということと、とにかく多数のアイデアを出すということ。他者のアイデアに便乗することは、言い換えれば他者のアイデアを認めるということにもなり、これがカヤック社内の「褒め合う風土」を醸成しています。そして数を出すことに集中したとき、人は他者を批判する余裕がなくなるのだそう。これが「面白がる体質」の元になるといいます。これは同社の理念である「つくる人を増やす」にとって、欠かせない要素。またこうしたカヤック流のブレストは、経済産業省や教育機関、大手メーカーなどにも導入されており、社外にも広がりを見せています。

 

下記にご紹介する『空飛ぶ思考法』では、上記以外にも数あるユニークな取り組みや、氏の考え方の一端に触れることができます。

 

 

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柳澤大輔著『空飛ぶ思考法』

サンマーク出版 刊

1300円(税別)

 

次回研究会セミナー(6/7開催)では、カヤックが面白法人として、次代に対してどのような視座で取り組みを仕掛けていくのか、その展望をお話し頂きます。


 

文化経済2018.3月 講演レポート②/富田直美氏

 

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3月7日に行われた第93回文化経済研究会、第2部はハウステンボス株式会社取締役最高技術責任者(CTO)兼 株式会社hapi-robo st 代表取締役社長の富田直美氏にご登壇頂きました。

 

ハウステンボスに大胆な形でロボットを導入し話題を集めた後、2016年に株式会社hapi-robo st(以下、ハピロボ)を起業、ロボット事業を本格化させた富田氏。テクノロジーにとって重要なことは、決して技術革新などではなく、そのテクノロジーで「人はどのように幸せになれるか」という点に尽きると語ります。講演を通して、氏の熱い「幸福論」を学びました。

 


・経験と未経験、無限大の差・


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冒頭、いきなりセグウェイに乗り、会場を縦横無尽に駆け回る富田氏。70歳という年齢を感じさせない、鮮やかなライドに会場は釘付けです。

 

「朝から晩までセグウェイに乗っていたって、何のセンスも磨かれることはありません。それどころか、やがて退化して歩けなくなってしまうでしょう。でも一方で、これに『乗ったことがある』という経験をしているか、そこには意味があります」

 

「失礼な言い方をしますが、皆さんは『コピペ』で生きています。僕は自信をもって『私はコピペをしません』と言えます。自分で経験していないことを大きい声で喋りません。自分の経験をベースに考え、話し、本を読み、人の話を聞きます」

 

経験したことは1。経験していないことは、どうやっても0。経験の有無、その差は『無限大』だと、富田氏は定義づけます。人間にとってまず一番大事なことは、経験をしたことを下敷きにし、自分で考えることだと語ります。

 

 

・技術は人を幸せにするのか?・

 

あなたの幸せは何ですか、と氏は会場全体に問います。

 

「どうしてテクノロジーの話をする時、幸せのことを考えるのだろうと思う方もいるかもしれません。技術は人を幸せにしてきたのでしょうか。間違いなく『楽』にはなりました。便利になり、生産性も上がりました。それが人を幸せにしましたか?」

 

楽になったことで幸せになるのか。思い通りになれば幸せになるのか。氏はそうした根源的なところから、幸福の意味を問います。

 

「そうした根本的なことを一人ひとりが考えて欲しいんです。独断と偏見に満ちた私の結論を言いますが、自分の幸せは自分で考えるべきだと思います」

 

しかし、ハピロボを立ち上げた時、その経営理念に据えたのは「人々の生活を幸せで豊かにする」ということ。それを謳うからには、年齢も国民性も関係なく、人々が本当に幸せになれる方法について、富田氏自身にも考える必要が生まれました。

 

「本来、人間はそれぞれにすごい能力を持っています。人というのは、自分の能力を発揮し、認められた時に幸せになる。逆に、自分の能力を否定され、潰された時には不幸になるのだと。これは全員が賛同してくれるだろうなと思い、ハピロボのコンセプトにしました」

 


・人間の「エゴ」をエコシステムに取り込む・

 

「すべてのテクノロジーは、人間の能力を伸長させるために使われるべきです。儲かるからこのテクノロジーを使おう、という考え方ではもはや立ち行かない段階にまで来ています。世界的に、従来のエコノミーの形が破綻している。だから大問題になっているわけです」

 

そこで氏が独自に提唱するのが、新たな概念「E-trinity」。自己(エゴロジー)・自然摂理(エコロジー)・環境経済(エコノミー)の3つの「E」によって、幸福世界を実現しようというものです。

 

「E-trinityは私のライフワークです。ここで重要なのはエゴロジー。エゴです。自分の幸せを中心にしていいんです。その幸せの中で、環境も自分ごととして考えなきゃいけない。いくらお金があっても、環境が破壊されていたら人間は嫌なんです。そして、継続して利益が上がらなければテクノロジーを使い、活かしていくことが出来ない。だからエコノミーも必要になってくる。そしてエコロジー。この3つを一遍に実現することを考えなければ、これからの地球はおしまいです。テクノロジーは、考えて実現するための道具に過ぎません」

 

講演を通し、一貫して語られていたのは「自ら考えること」の重要性でした。全てを並立して実現させ、地球社会全体の「幸福」を実現するため、富田氏は考えに考え、オリジナリティを持って取り組み続けます。

 

文化経済2018.3月 講演レポート①/出雲 充氏


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3月7日に行われた第93回文化経済研究会、第1部は株式会社ユーグレナ代表取締役社長の出雲充氏にご登壇頂きました。

 

従来不可能とされてきたミドリムシの食用屋外大量培養に世界で初めて成功し、ミドリムシを産業化させた背景には、多くの苦難がありました。決して諦めることなく「人と地球を健康にする」という信念を掲げ続け、不可能を可能に変えた氏の成功哲学を学びました。

 


・ミドリムシとの出会い、挑戦の始まり・

 

出雲氏にとってのターニングポイントは、東大在学中に経験したバングラデシュでのインターンでした。同国が最貧国として抱えていた深刻な問題は食料不足ではなく、「栄養の不足」でした。そこには有り余る量の米があり、人々は毎日カレーを食べている。しかしそのカレーには何一つ具が入っていません。空腹は満たせても、健康な生命維持に不可欠な栄養素がほとんど摂取できず、人々は栄養失調に苦しんでいました。

 

バングラデシュからの帰国後、そうした状況を打破したいと、栄養価の高い食品を手当たり次第に探した出雲氏。その最中、動物と植物の特性を併せ持ち、どのどちらの栄養素も生み出すことができる「奇跡の生物」、ミドリムシと出会います。氏にとっては衝撃的な出会いでしたが、その当時、ミドリムシの大量培養は至難の技。実用レベルでの培養には、誰も成功したことがないというのが現状でした。

 

培養が上手くいく保証もないまま、氏は仲間と共に株式会社ユーグレナを立ち上げ、「不可能」にも等しい技術を現実にするべく、苦心することとなります。


 

・不可能の先、さらにそびえる「壁」・

 

2005年12月、奇跡が起こりました。気が遠くなるほどの試行錯誤を経て、同社は遂にミドリムシの食用屋外大量培養に成功します。出雲氏はこの時、これで事業化への道が拓けると確信したそうです。しかしながら、ここからも試練が続きます。幾ら営業を掛けようとも、ミドリムシを使用した製品に、誰も見向きをしませんでした。


その数、500社に断られたと言います。


「どこに行っても『ミドリムシのこれまでの採用実績は?』と訊かれました。まだありませんと答えると、『他社が採用したら我が社も考えます』。本当にそればかりでした。気づくと、500社に断られていました」

 

資金のショートが目前に迫り、事業を畳む瀬戸際にまで立たされたユーグレナ。しかし501社目との出会いが、そこからの流れを180度変えました。


「その方は『私は他社の手垢が付いていない、真っさらな物を探していました』と仰いました。そこから厳しい審査がありましたが、遂に役員会を通りました。2008年5月、501社目のことでした。私はあの時のことを一生忘れません。その501社目は伊藤忠商事でした」

 

そこからユーグレナの事業はようやく軌道に乗り、2008年の5月以前と以後では、全く違う会社に生まれ変わったようだと、氏は当時のことを回想します。ミドリムシの培養成功から、実に3年近くが経っていました。



・繰り返すことの価値と、若手を支援する意義・

 

2014年、東京大学発ベンチャー企業として、ユーグレナは日本で初めて東証一部への上場を果たしました。大学発ベンチャーの殆どが倒産するか赤字という状況の中で、これはまさに「不可能」を「可能」に変えたと言うべき快挙でした。競争し、イノベーションを起こすため、本当に必要なのは「繰り返すこと」だと出雲氏は断言します。

 

「成功率が1%だとすると、理論上459回繰り返せば成功率は99%になる。これが私の持論です。問題は、そこまで諦めずに続けられるかどうかなんです」

 

また同時に、若者、そして大学には、日本にイノベーションをもたらすための「種」が山ほど眠っていると氏は言います。そんな若者と大学をどうか応援し、支援して欲しいと、講演はその言葉で締め括られました。それは自らが若い頃に味わった辛酸から出た、氏の切実で、実直な思いやりの言葉でもありました。





 

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