研究会ブログ

2014年02月 3日 Mon. Feb. 03. 2014

女性ファッション誌でトップに躍り出た宝島社の市場創造力

今年3月、宝島社が新たなファッション誌を2誌創刊する。

1つは『オトナミューズ』。今、日本一売れているファッション雑誌である『sweet(スウィート)』の卒業生を中心とした、40歳前後の女性をターゲットとする。“一生女の子”と宣言してきた『sweet』読者たちが40歳前後になった。『オトナミューズ』は、大人の女性が思いきりファッションを楽しめるような雑誌だ。

もう1つは『大人のおしゃれ手帖』。ナチュラル系雑誌『リンネル』の姉妹版という位置づけ。着心地や素材感、自分らしいスタイルなどへのこだわりはそのままに、40代~50代をターゲットとし、“自由で楽しい日常のおしゃれ&暮らし”を提案する。

なぜ、今この2誌なのか?

宝島社には2010年の『リンネル』『GLOW(グロー)』同時創刊により、“ナチュラル系”と“40代女子”の市場を開拓した実績がある。今度の2誌同時創刊の背景を、同社に取材した。

 


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■卒業していく読者の受け皿

創刊を重ねることは、宝島社のこれまでの歩みと関係がある。

今でこそファッション雑誌でシェアNo.1の同社だが、じつはファッション雑誌の分野では後発。80年代、カルチャー雑誌『宝島』しかなかったころに、街をゆく一般の人々の写真(ストリートスナップ)を同誌に掲載したことが始まりだ。“街のおしゃれを取り上げる”、これまで他のファッション雑誌でもなかったその企画が群を抜く人気となり、89年に日本で初めてのストリートファッション雑誌『CUTiE(キューティ)』を創刊するに至った。

そして90年代には『CUTiE』の男性版として『smart(スマート)』、『CUTiE』少女の成長にともない『SPRiNG(スプリング)』を創刊した。

 

読者は成長して大人になっていくが、宝島社ではそれに合わせて雑誌の内容を大人向けに変えていくことはしない。『CUTiE』から『SPRiNG』が生まれ、『SPRiNG』からさらに“30代女子”のための『InRed(インレッド)』が生まれたように、次の受け皿を用意している。

一方、既存の雑誌は、新しくターゲット層に達した新しい読者を常に取り込むことで長く続いている。

 

■世界観から雑誌を作る

“裏原宿”ブームを作った『smart』からは“モテボーイッシュ”を掲げる女性ファッション誌『mini(ミニ)』が派生している。当時、「裏原宿に行くと“裏原系”の男の子の隣に、彼らと似たファッションをした女の子がいる」という発見があり、細分化していく女性の好みに対応した創刊だった。 

 

ファッションには、その人にとって「あり」か「なし」か、という判断基準がある。たとえば、スタイリングとして、タイツや靴下の重ねばきは「あり」か「なし」か。『リンネル』の読者のようにこれを「あり・おしゃれ」とする女性もいて、その差異が市場の基になる。

それぞれの嗜好性があり、各雑誌の読者のこまかなプロフィールができあがっているという。

 

■目的はマーケットを創ること

①卒業生に向けた雑誌。 

②細分化していく好みに合わせた雑誌。

どちらの場合も、まだ市場として認知されていないところに雑誌を投入することによって、市場を掘り起こし、その新しい市場のビジネスを活性化することを目的としている。

 

■一番誌を目指す

2007年に同社は「一番誌戦略」を掲げた。そのジャンルで一番誌でなければ広告は入らないし、クライアントに対する説得力も持てない。雑誌を作るために必要な広告収入を確保するためだった。

 

ただ、雑誌のライバルは雑誌ではない。例えば、『sweet』の競合誌を訊かれたら、「スターバックスのトールラテ」がライバルだと答えている。雑誌と同じくらいの時間や金額を費やすものすべてをライバルととらえているからだ。

では「スターバックスのトールラテ」の代わりに雑誌を買ってもらうためにはどうすればいいのか? 「ブランドアイテム」と呼んでいる“付録”が、その対策のひとつだった。ブランドとコラボしたアイテムを付けることにより、それまで雑誌を読まない層に興味を持ってもらうことに成功した。

 

また価格も見直した。――付録はどんなものか、雑誌の厚みはどうか、世の中の景気は…――それらの要素によって、おなじ雑誌であっても読者にとっての“お買い得感”は変わってくるからだ。毎号を新商品ととらえて、読者にとっての適正価格を毎月考える。号によっては200円も変わってくる。

大切なのは「いくらなら“お得”だと感じてもらえるか」。920円で12万部売っていた『InRed』を880円にしたら、完売した。そこで原価の積み上げで価格を決めるのではなく、読者の値ごろ感を参考に考えて大胆に650円にしたら、3倍の36万部が売れた。これらを機に、宝島社は3年間でファッション雑誌の累計販売部数を3倍以上に伸ばし集英社を抜き、女性ファッション誌でトップシェアになった。


このような意思決定は、すべて社長から各誌の編集長、営業までが出席するマーケティング会議で毎号行っている。マーケティング会議では、その月に出版するすべての雑誌をはじめ、全商品においてパッケージ(表紙)や価格、プロモーションなどを検討している。

 

■書店流通、マスの力を重視

書店流通も見直した。出版社の財産は、書店で商品を売ってもらえることだと宝島社は考えている。書店流通は出版社最大の強みであり、活かさないのではもったいない。同社では「宝島社書店」という書店でのキャンペーンを実施した。普段は書店に足を運ぶ習慣のない層がグッズのついたブランドムックを目当てに来店し、書店から喜ばれた。

 

もうひとつ重要なのがマスへのアプローチだ。どんなに良い商品を作っても知ってもらえなければ意味がない。メディアに取り上げてもらうための企画として『GLOW』創刊時は銀座の百貨店をリボンでラッピングし、40代女性400人にルビーをプレゼントした。PR企画は、ヤフーのトップニュースを狙い、13文字で説明できるわかりやすいものを心がけているそうだ。

 

■リーディングカンパニーのすべきこと

リーディングカンパニーとなった今、宝島社では雑誌市場のπ(パイ)を大きくしたいという。市場は拡大する努力を怠ると、どんどん小さくなってしまう。πを大きくするために、同社にしかできないことはなにか? それが新雑誌の創刊だ。

 

今年3月に創刊する『オトナミューズ』は40歳前後、『大人のおしゃれ手帖』は40代から50代をメイン読者に考えている。『sweet』『リンネル』、それぞれの卒業生に向けて次の受け皿を用意したということであり、同社が実績を上げてきた手法だ。

 

今、宝島社は全社的に“大人雑誌の創刊”にまっしぐらだ。大人はファッションだけでなく、生き方やライフスタイル、生活全般に興味を持っている。同社では働く大人をターゲットに、雑誌創刊することで新しい女性像・価値観を提案し、新市場をしていきたいと考えている。

 


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新創刊される『オトナミューズ』は創刊に先駆け、ムック形式でも販売してきた。(写真上)


 

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『大人のおしゃれ手帖』も同じくムックでの販売実績がある。


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