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2017年8月 2日

「多様性」の再検討と社会的イノベーション 井関利明

 


 

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昨今、「多様性(diversity)」を強調する論が目立ちます。高度成長期を通じて、人々は「等質性」「同調性」「効率性」「量的増大」そして、「競争と成長」こそ、有効で正しいものという認識に立っていました。しかし、その価値観で今の成熟し、多様化した社会を見ていても、すでに現れている多様化現象を、見落としてしまっています。その表れとして、性別、年代、女性、外国人、ハンディを持つ人など「見える多様性」にだけに意識が向いてしまっています。しかしながら、メガネをかけ替え、発想を変えれば、組織の内にも、個人の態度や行動にも「多様性」を見出すことができるはずです。まずはメガネと意識を転換することが大切です。

 

「多様性」を強調する立場からすると、有効なイノベーション・プロジェクトを立ちあげるのに、日本型リーダーは不要となります。リーダーはフォロワーがいて始めて成り立ちます。二元的な上下関係ではなく、多様な立場の多元的なチームの中で、状況と場面に応じて、誰もが役割として“リーダーシップ” を発揮できる「役割複合態」こそ理想といえます。それを構成する要素は、チームの状態を維持させ、事業を促進させているファシリテイター(Facilitator)、互いの価値観の相互理解を促す働きを持つインタミディエイター(Intermediater)、そして言葉の違いや発言者の背景を踏まえて意訳するトランスレイター(Translator)の少なくとも3 つの役割が求められます。役割は特定の個人に帰属するものではなく、各人がすべての役割を担う場合もありえます。そしてチーム・メンバーに、参画意識を与えるエンゲージメント(Engagement)、意識と感情の共有によるエンパシー(Empathy)、そして参画メンバーが役割を担い活性化するエンパワリング(Empowering)がイノベーションの原動力となるのです。多種多様な知がダイナミックに組み合わされた状態となることが、社会的イノベーションへとつながっていくはずです。

[2016 年4 月1 日発行『構想の庭』第2 号 再録]


井関利明(いぜきとしあき)

1935 年生まれ。慶應義塾大学名誉教授、社会学博士。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学大学院社会学研究科博士課程修了。知的世界の放浪者を自認。大学改革の手本となった慶応大学SFC 創設の中心メンバー。著書に『創発するマーケティング』(日経BP 社)、『思考~日本企業再生のためのビジネス認識論』(学研)など多数。

 

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