江戸の生活文化: 2009年9月アーカイブ

東京の下町では、浅蜊料理が食卓に登場する頻度がとても高い。
初夏からの旬の季節には、浅蜊のみそ汁、吸い物はもちろんのこと、殻ごと酒で蒸したもの、
浅蜊のむき身を生姜とともに醤油で甘辛くさっと煮たもの、
白ネギとむき身、油揚げを煮て卵でとじたもの、
冬になれば大根と浅蜊のむき身たっぷりの鍋など……。
池波正太郎の小説にもよく江戸の「食」が出てくるが、浅蜊を使った料理も登場する。



「待たせていただきたい」
という大治郎に、先ず、冷酒を湯のみ茶碗にいれて出した。
── 略 ──
それから、おみねは夕餉の支度にかかり、たちまちに大治郎へ膳を出した。
その支度があまりにも早かったので、大治郎は遠慮をする間とてなかった。
いまが旬の浅蜊の剥身と葱の五分切を薄味の出汁にたっぷり煮て、これを土鍋ごと持ち出したおみねは、汁もろとも炊きたての飯へかけて、大治郎へ出した。
深川の人々は、これを「ぶっかけ」などとよぶ。
それに大根の浅漬のみの食膳であったが、大治郎は舌を鳴らさんばかりに四杯も食べてしまった。
『剣客商売 待ち伏せ』より


この「ぶっかけ」こそ、ご存知「深川めし」である。
深川辺りの漁師が忙しい仕事の合間に、文字通りそこで獲れた浅蜊を使って考え出した料理だけあって、簡単で早くて旨い! おみねの手際のよさ、そして大治郎の食べっぷりからも分かろうというものだ。
現在、店で出す「深川めし」には、「ぶっかけ」と「炊き込み」がある。
そしてぶっかけは、ほとんどが味噌仕立てだ。
しかし、おみねが作ったものは、文面からはかるに、どうもそうではないらしい。
そこで、おみね風「深川」を小鍋仕立てにして再現してみた。

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長葱の甘みと浅蜊の出汁が合わさり、旨味をたっぷり吸った葱が酒のあてには丁度いい塩梅。
これをご飯にかければ「ぶっかけ」となるわけである。
また、夏の食欲がない日、ちょっと胃が疲れている時には、
出汁であたためた豆腐に、味噌汁よりも少し濃いめの味噌仕立てにした「深川」を掛けてちょっと山椒を振って食べる「深川豆腐」がおすすめ。
くれぐれも浅蜊を煮過ぎないことが美味しく作るポイントだ。

だいたい、気の短い江戸っ奴が手間ひまかけて、料理をこねくりまわして作るわけがない。「深川」も浅蜊の剥身を使えば、ものの10分ちょっとででき上がる。
時間がない、でもカラダにいいものが食べたい! 現代人にももってこいのメニューなのではないかぇ。

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