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2014年3月 3日 22:26

学校支援ボランティア「りぷりんと」のトライアル

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東京都健康長寿医療センター
社会参加と地域保健研究チーム  博士(子ども学)
安永正史先生

「りぷりんと」は絵本の読み聞かせ活動を通じてシニアが学校支援を行うボランティア団体です。東京都健康長寿医療センター研究所の「社会参加と地域保健研究チーム」が、「世代間交流」に着目して2004年から始めたプロジェクトが団体立ち上げのきっかけとなっています。この活動は、最近では認知機能の低下抑制につながるということで、認知症予防の観点から注目をいただくようになってきました。横浜市青葉区、東京都大田区、豊島区などで、これを目的に講座が開かれるようになり、さらに活動の輪が広がっています。


「りぷりんと」の生みの親と言えるのが当研究チームの研究部長であり、医師の藤原佳典先生です。アメリカのExperience Corps® という研究を見たことがプロジェクト立ち上げのきっかけでした。このアメリカの研究では、シニアは、近隣の小学校で読み書き計算などを教える学習ボランティアに従事します。アメリカの社会格差はわが国以上に顕著です。貧しい家庭の子どもの中には十分な家庭教育がないまま小学校に上がって来る子どもも地域によっては少なくありません。それを教育的に補償していくというのがねらいです。シニアにとっては生きがいとなり、心身の機能の維持にとって良いことですし、子どもたちには基礎学力向上のための補償教育になります。また、シニアが入ったクラスや学校全体の雰囲気に落ち着きが出たという報告もされています。


ただし、日本では「補償教育」のニーズがアメリカほどありません。さらに、ニーズがあっても、日本の場合は、学校を退職された先生や大学生ボランティアが既に活躍しており、シニアがそれに替わるのは難しく、色々考えた末に、絵本の読み聞かせにたどり着いたわけです。カリキュラムへの影響の少ない朝の授業前の時間や昼休みの時間帯なら学校側から協力を得られやすいこと、また、いわゆる「朝の読書」運動の全国的な広まりによって、朝の学級活動の時間帯に児童が図書に触れることがなじみの学習活動になりつつあることも、このプログラムが選ばれた素因になっています。

 

読み聞かせを通じてシニアは元気になり、子どもも貴重な経験を得られます。シニアは外出する目的がないと、当然、家に閉じこもりがちになり、体力も低下し、気持ちの上でも落ち込んでしまいます。小学校や幼稚園に足を運び、絵本を読むというボランティアによる社会参加が、心と体の健康につながるのではないかと考えられたのです。

 

絵本は非常に内容が豊かで種類も豊富です。また、毎年、2千冊弱の新刊が出版されており、新しい素材探しにも困りません。また、読み聞かせの仕方についても、子どもたちに見やすい角度で絵本を保持し、適切な声の大きさで滑舌良く、つかえることなく読むには事前の練習と弛まぬ研鑽が欠かせません。つまり、奥が深く興味が尽きないということです。したがって、生涯学習として長く続けることができます。シニアさんにしてみればこうしたことを意識するとはあまりないご様子で、「自分で選んだ絵本を読み聞かせられるのはすごく嬉しい」といった素直な喜びの声をよく聞きます。

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 このシニアによる読み聞かせ活動の効果を当研究所では、シニア、子ども、学校環境の3つの観点から調べています。その結果、シニアの社会的な交流について、少なくとも2つの効果が見られています。まず、近隣の住人以外の知人が増えたこと、つぎに、子どもとの交流が増えたことです。子どもが、登下校時に声をかけてくるようになった、子どもと町中で出会ったときに、一緒にいた両親を紹介してくれた、日常のあいさつが増えたといった声をシニアさんからよく聞きます。

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さらに、シニアの体力や精神面での変化も調査していますが、多くは改善傾向が見られています。実感として見た目にも変化は現れます。女性の方は、お化粧をしていらっしゃるようになり、服装も明るい色になります。笑顔が増え、背筋もピンとまっすぐになります。これは大きな変化だと思います。人に見られることを意識し、活動が認められて自信が増すことで、行動様式に変化が現れてくるわけです。

 

子どもの前に出るということは、かなりのプレッシャーではあるのですが、それによって気持ちの張りがでるのでしょう。中には、緊張しすぎて読み聞かせを遠慮する方もいらっしゃいますが、子どもが熱心に話を聞き、真剣な反応をする様子を見て、徐々にご自分でも読み聞かせしたいと思うようになるようです。


週1回であっても、読み聞かせを半年、1年と長期で続けていくとは簡単ではありません。しかしながら、子どもたちが待っていると思えば、決まった時間に起きて、きちんとした格好で行こうという気持ちになるのも確かだと思います。「また読み聞かせにきてね」と言ってもらうことが嬉しくて、「大変だけどがんばってますよ」と話される方は多いです。

こうした一つ一つが、シニアの活動の長続きにつながり、結果として心身の健康を維持する「しかけ」と言えます。

 

この活動は、基本的に募集をかけて参加者を募ります。広報や口コミ、タウンニュースに告知記事を載せてもらうこともあります。応募者が集まったら、1回2時間ほどの読み聞かせ講座を10回ほど受けていただいた後、小学校などの施設で実践します。ただ文字を読むということではなく、滑舌や姿勢のこと、さらに絵本を理解していただくためにも専門家による指導は活動を始める上で必須としています。

 

講座は、1グループ20名ほどで行われ、その卒業生として全体で300名ほどが現在活動しています。参加者の年齢には幅があり、最高齢は87歳の方です。もともと60代以上の方という制限を設けていましたが、60代以下の若い世代にも参加していただいた方が、グループが維持されやすいというのが、ここ10年くらいの研究で分かってきました。ただ、シニア世代が主体となって活躍していただくには、年齢を引き下げすぎても、若い世代に頼ってしまう可能性がり、悩ましいところです。 
 

活動するうちに、デイサービスや特別養護老人ホームの方から、ボランティアさんのもとへ直接依頼が入ってくるようにもなってきています。りぷりんとは、「世代間交流」をテーマとしているので、子ども向けの読み聞かせを行ってきましたが、今後は、子どもに限らずいろんな世代の方に読み聞かせを広げて行くことになると思います。

 

人と人との関係性やつながりを、社会学的には「ソーシャルキャピタル」と言います。かつては、町内会や自治会といった非常に強いつながりがありましたが、現代では希薄になりつつあります。住んでいる土地になじみがあり、友人知人もいるというのが一昔前の日本でした。しかし、今は必ずしもそうではありません。お母さんがたは、PTAなどで多少地域との関わりがありますが、男性は、会社との関係が優先で、地域との関わりが薄くなっています。でも、退職後は仕事関係はなくなりますが、ご近所にも知り合いはいないという状況になります。

 

ですから、これからは地域の誰かと関係を作ることが非常に重要になると思います。ボランティア活動によるゆるいつながりを構築していけば、かつて会社人間として地域になじみのかなった男性も近隣住民との結びつきができて地域全体にも安心感が生まれるのではないでしょうか。
 

 りぷりんとも今後は、各地区で活動を続ける皆さんがまとまるようにNPO法人化していただき、私たち研究チームはサポートに回ろうと考えています。この活動を社会的にももっと広めていきたいと強く思っているので、りぷりんとの組織としての独立化が私たちの今の一番の願いなのです。

 


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