〜第一興商 エルダー事業開発部部長 戸塚圭介さん〜
ご存知のように、音楽を聞いたり、それに合わせて体を動かしたりすることは、
健康にも効果的で、日本音楽療法学会という組織やミュージックセラピスト
という職種もあるほどです。いわゆる、“音楽のチカラ”でしょうか。
ただ、NHKのラジオ体操もそうですが、体を動かすにも、
音楽がなければ楽しくないですよね。
そこで、高齢社会が進む中で、老人介護軽減にカラオケを役立てられないかと考え、
2000年当時に徳島大学などの協力を得て作ったのが
「DKエルダーシステム」です。介護度別に5段階、5曲をコンテンツとして作り、
それをもって介護施設への普及を始ました。弊社がやるわけですから、
音楽療法というよりも、楽しさを第一に考えた、
カラオケ療法として楽しむ要素を大事にしながら取り組んでいます。
カラオケは、参加性が強いのが特徴です。音だけでなく映像も伴うので
視覚を刺激するし、結果、アドレナリンやドーパミンの量も増えるのでは、
と思います。つまり、聞く、見る、動く、歌うの4つの行動がミックス
されることで、いろいろな効果が期待できるわけです。もちろん、
毎日のように続けることが必要ですけれど。
●唾液が増えれば元気になる!?
現在、日本の高齢者約3000万人のなかで、介護を必要としない
元気な高齢者は約2500万人とされていますが、国の経済面においても、
また、個人のQOLの観点でも、この方々を要介護にしないことが
重要になっています。
行政も各地域でいろいろ実施していますが、どうしてもハードが中心になりがち。
ソフト面は、囲碁・将棋、カルチャー教室ぐらいで、
高齢者の生きがい創出や機能改善といったレベルには達していない状況です。
体の機能維持に唾液の分泌量は大切なポイントですが、その量は加齢とともに
減ります。ただ、表情筋が動けば増えるので、そういう運動を意識的に
行えばよいわけですが、我々はエンターテイメント企業ですから、
単純に動かすのではなく、みんなで楽しく動かしたい。それが歌を通じた
コミュニケーションであり、さらに健康機能が改善すればなおよしなのです。
この2~3年、東北福祉大学や鶴見大学など、複数の大学とその共同研究を
進めていますが、いずれについても、歌うことが健康機能改善に有効である
ことが証明されています。特に節回しがポイントということです。つまり、
それによって表情筋がより動き、唾液分泌も活性化するということがわかっています。
●“地域包括「余暇」センター”を目指して
昨年11月に高齢者コミュニティーの創出や健康増進をテーマに、
まずは形にしてみようということで、東京・高円寺でDAM倶楽部という施設を
オープンしました。高齢者ニーズをさぐるアンテナ的な意味もあり、
大学の研究材料にも活用していただいていますが、このエッセンスや
ノウハウを全国に広めていきたいとも考えています。
行政は、地域包括支援センターを展開して高齢者サポートを進めているのは
ご存知かと思いますが、我々は、“地域包括「余暇」センター”と
でもいうべき存在を目指しています。
この4月から奈良市の温浴施設に、高円寺のノウハウを生かした案件を
スタートさせました。すでに7000人以上が利用しているとのことで、
高齢者や地域住民の健康増進につながる結果ともなっています。
6月半ばには正式にDAM倶楽部を導入したところです。
奈良市の温浴施設にDAM倶楽部を導入した(写真左)。 東北の震災では、国連の友が展開するカラオケカー帯同の巡回心療医療に全面協力した(同右)
民間企業の様々な努力も効果を見せ始めており、
NTTは北海道の美唄市とのコラボで、ある著名なドクターの協力で
100曲ほどのカラオケ体操をつくり、それを市民に利用してもらうという
ケースで医療費の軽減状況を5年間追跡調査したところ、なんと一人当たり
月額で1万1800円削減できたといいます。
これが日本の元気高齢者2500万人に利用されたらすごいことですよね。
流通企業でも、ツタヤやイオンなどの大手をはじめ、コンビニなども
さまざまなシニアシフトを始めているのはご承知の通りです。
これまでにないスピードで高齢化が進む日本の対応に、
世界中が注目しており、行政も民間もそれぞれ懸命に取り組んでいます。
我々もしっかりとしたエビデンスに裏付けられた、カラオケによる
生活総合改善策を示していきたいですね。そういう意味では、
お酒とカラオケというイメージがつきがちだったものもすでに「文化」
としての役割を果たしていると言えるのではないでしょうか。