eof; } ?> eof; } ?> 東大・秋山先生が語る超高齢社会の課題③~全員参加、生涯参加の街づくり:CAN Healthy Design Club

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2012年6月20日 13:11
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健康長寿に向けての個人の取り組みは、いろいろな研究がありますが、昔から言われている「食・運動・交流」が重要です。どれか1つではなく、全部です。今日は食について申し上げます。高齢者になると食の重要性が増してきます。食べることは楽しみであり栄養ですが、機能食などけっして栄養面だけではなく、食にはいろいろな機能があることを認識していただきたいです。

例えば「喜びの源泉」であり「リラックス」「コミュニケーション」です。食べることで人とつながります。若いときの贈り物はアクセサリーなどがあっても、70歳にもなればすでに持っているので、差し上げて喜ばれるのは食べ物ですね。「おばあちゃんのあれが食べたい」と孫に言われれば社会的役割です。「食料品を買いに行くときだけは外出」と言う人が調査の中でも多いです。1人暮らしの人は1日中パジャマ姿でもいいのですが、3食食べることが1日のリズム、規則正しい生活につながります。いろいろな機能があることをふまえて、食品開発や梱包などを考えていただきたいと思います。

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長寿社会の街づくりを、コミュニティで社会実験をしています。住宅、移動、医療、リタイアの受け皿問題などいろいろな実験をし、さらにそうした介入を評価しながら続けています。主要な領域は「人のつながり」「就労・社会参加・生きがい」「包括的医療・介護システム」「住宅」「移動手段」「情報システム」という分野で、首都圏のごく平均的な街である千葉県柏市と地方の福井県福井市、被災地の福島県大槌町で行っています。

柏市の豊四季団地はURが1960年代の高度成長期に、大きな団地を建てました。団地は5階建てでエレベーターがなく全室2DK。新しい建物は10階あるいは14階建てで、エレベーターがありバリアフリーです。高層化したことで空き地ができます。そこを利用して長寿社会対応の街づくりをしようとしています。例えば医療・介護・リハビリ・在宅ケアなど、在宅医療の拠点。また1人暮らしの高齢者や通勤に忙しい夫婦、学童などがいっしょに食事ができる食堂(コミュニティ・ダイニング)などを作ろうと仕掛けています。

ここの理念の1つは「全員参加、生涯参加」。前述のとおり課題の1つに「いかに自立期間を長くするか」がありました。聞き取り調査でも多くの人は、60歳のリタイア後も元気であり、知識・経験・スキル・ネットワークをお持ちです。しかし「コミュニティには知っている人がいない、何かしたいが何をしていいかわからない、ボランティア活動は敷居が高い」という声もあります。それでも参加する人は1割いますが、9割の人が家でテレビを見てゴロゴロしたり、散歩をしたりという生活。そうすると脳も筋肉もすぐに衰え始めます。そうした方々に家から外に出て、人と交わって活動してもらいたいのです。1番敷居が低くて外に出やすいのは、働く場があることとおっしゃいます。でも満員電車で通勤する生活はしたくない。 

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そこで、歩いて行ける就労の場を作ろうと、いま7つの事業を立ち上げています。休耕地を利用した都市型農業や団地敷地内を利用したミニ野菜工場、団地の屋上農園、コミュニティ食堂、移動販売・配食サービス、保育・子育て支援事業などです。ポット栽培なら車椅子でも働ける場になります。弱っても働きたいという気持ちがあれば、1週間に1回でも外に出て人と交わり、働いてお金を得る生活ができる環境づくりです。

同時に、新しい働き方の開発・普及を準備しています。就労者は「月水金だけ、午前中だけ」と自分で時間を決めて働き、雇用者側も「雨天の場合は人がいらない」というのもOK。大きなワークシェアリングのプールをつくり、それをマッチングしていきます。クラウドコンピュータシステムを用いた技術開発を使い、フレキシブルな働き方を支援できるので、雇用者にとっても働く人にとっても、より良い働き方になります。旅行やゴルフをしながら働け、年金プラスの収入で生活に余裕やハリができます。

また、高齢者が働き続けるために「軽労化技術」というテクノロジー開発をしています。例えば農業では中腰作業が大変ですが、これを軽くするための簡単な装置を大学と企業が連携して開発したものを私たちがテストしています。またLED照明は自然光に近づけることに一生懸命ですが、長寿社会にはもっと違うニーズがあり、はっきり見える電灯がほしいのです。ある企業ははっきり見えるLED照明を開発しました。文字も段差も良く見えます。視力の衰えを技術で補います。

このようにみんな元気で、外に出かけられる環境をつくれば、いろいろなことができるわけです。もう1つ聞き取り調査で上がる多くの声が「これまでの生活を来月も、来年も、10年後もしたい」と。楽しかったことを楽しみたいし、好きだった食べ物を食べ続けたい。例えば男性は血糖値が高くなり酒をストップされると寂しく、元気がなくなります。ビールに近づけるのではなく、ビールよりおいしいノンアルコールビールを開発してほしいです。高くても買いたいものをつくっていただきたいとビール会社にお願いしています

「高齢化市場の捉え方」として、1割の虚弱なシニア(要介護)と1割の裕福なシニア(富裕層)だけでなく、8割の普通のシニアに目を向けましょう。いまの90歳代の人たちは、90年も生きるつもりがなかったので準備をしていませんでした。でも団塊の世代は自分の親を見てこれから30年あると考え、長い老後の準備をします。自分が安心して快適に、これからの30年を過ごすためには、ある程度の投資をしても良いという、初めて準備する世代です。だから堅実です。

zuI.gif人口の高齢化はグローバルな課題であり、日本はトップランナーです。とくにアジアの国々は急速に高齢化しています。だから日本で良いものをつくれば、マーケットは非常に大きいのです。とくにアジアは経済の成長と、人口の高齢化が同時にきていますが、経済成長にプライオリティを置いて人口の高齢化に対応できません。だから日本が何をしているかを見ています。日本にとっては大きなマーケットです。

最終的には「長寿」「健康」「経済」の3つを結び、回るようなシステムをつくっていくことが、私たちの持続可能な長寿社会の課題であり、また可能性であると思います。

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 【Profile】 あきやま・ひろこ

イリノイ大学でPh.D(心理学)取得、米国の国立老化研究機構(National Institute on Aging)フェロー、ミシガン大学社会科学総合研究所教授、東京大学大学院人文社会系研究科教授(社会心理学)、日本学術会議副会長などを経て、現在、東京大学高齢社会総合研究機構特任教授。専門はジェロントロジー(老年学)。高齢者の心身の健康や経済、人間関係の加齢に伴う変化を20数年にわたる全国高齢者調査で追跡研究。近年は首都圏と地方の2都市で長寿社会のまちづくりの社会実験に取り組む。長寿社会におけるよりよい生活のあり方を追求。

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