〜明治大学理工学部教授 園田眞理子先生〜
高齢期の住宅に関する研究に長年携わっておられます
明治大学教授の園田先生に、お話をうかがいました。
高齢期の住み替えの現状、高齢者ペンションの考え方、
地域における支えあい、大学が地域において果たす役割など、
多岐に渡るお話を4回に渡ってお届けします。
1回目は、住み替え先についてです。
高齢期の住み替えについて考えるために、
まず、現在の60~70代前半の人たちのライフヒストリーを辿ってみますと、
高度経済成長期は、父親が転勤になれば家族みんなで
引っ越すのが当たり前でした。ところが、1980年代以降、
持ち家を取得してしまうと、たとえ父親が転勤になっても、
子育てのために家族は家に残り、
父親が単身赴任となることが当り前になりました。
その結果、人との付き合いや地域での関係もすべてその場所に蓄積され、
このことが現在のシニアの住まい方に大きな影響を及ぼしています。
今時の言い方をすると、「断捨離」でもしなければ、
抱え込んでいるものが多過ぎて、次の住み替えに進めないのです。
この点が大きな問題だと思います。
海外の高齢者と比較すると、日本人の60歳あるいは65歳を過ぎてからの
“動かなさ加減”は世界一です。非常にたくさんのモノや時間に縛られて、
次へ移れないでいます。何度も転勤を繰り返すなどで、
動くことに慣れている人は、住み替えについても比較的気軽に決断できる、
いわゆる“フットルース”ですが、転勤もなく、
ずっと同じ場所に定住してきた人ほど、
次の住まいへのハードルは高いようです。
日本の戸建て住宅は、子どもが2人もしくは3人いる時は、
120㎡前後の居住スペース全体を使って暮らしていました。
しかし、子どもたちが巣立ってしまうと2階の子ども部屋がほぼ物置状態となり、
1階もせいぜいリビングと寝室を使っているだけという
高齢世帯が意外と多いですね。
一方、「では、住み替えよう」と考えて、その先を探しても、
介護に絞ったものがほとんどで、もう少し手前の段階、
つまり元気なうちに移り住もうと考えた時の選択肢はあまりないですね。
それに介護が必要になった際に、誰が住み替え先を決めるかというと、
本人ではなく家族です。つまり、今の日本では早めの段階で
自分の意思で住み替え先を見つけ、
段取りができる人はまだまだ少ないということです。
ぎりぎりまで自分の家に留まり、介護が必要になった段階で家族が
探し回って施設へ移るケースが多い。
老後に備えた住み替えを考えるならば、
できれば50代後半から準備することをおすすめします。
ただ、50代ですと自分の老後への現実感もまだないですし、
かといって夢のある住み替え先もないので、つい先送りしてしまいます。
そこが大問題です。