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谷口正和 プロフィール

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2018年2月20日

美術手帖

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情報社会の特性として時間消費や体験型消費に代表されるように生活者は感動への参加を求めて移動し、滞留する。

 

感動や感激は技術的な側面で語られるのではなく、シナリオライティングやドラマメイキングという物語を共有したいという新たな価値を形成する。

 

イベントや体験学習が集合地となる特集型学習の時代は、生き方のヒント、過ごし方のヒントが新たな価値学習のフレームワークとなっている。

 

映画や演劇のような時間の流れを持つ芸術表現はドラマメイクとしてよく理解できる。

我々はドラマデザイナー、ドラマクリエイター、ドラマアーティストとなり、様々な表現芸術を塗り替えていく。

 

例えば、ミュージカルも劇場で観覧する情況から脱皮して、カフェやレストランなど日常の中で感受できるクラブドラマとなれば、カフェもまた、シアターである。

 

ショッピングセンターはホテルやミュージアムなどを組み込み、時間の過ごし方そのものにミッションを切り替えていかなければならない。

 

今号の『美術手帖』は、その気づきが詰まった特集となっている。ヒットドラマが出ると、生き方としての価値軸が一つが社会表現となる。

 

人生ドラマは、スクリーンに映し出された演者を超えて、生活者一人ひとりを感化する。そして、その人の時代性と独自性を高め、その価値は市場化して行く。

 

感動をドラマツーリズムと見切った時、その流れを確認することができる。その片鱗を特集した今号の『美術手帖』は時代と合流している。

 

出版社:美術出版社

価 格:1600円+税

2018年2月15日

エネルギーみなぎる"昭和時代の波"を写した写真集

 

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平成が終わることが発表され、いま一度「昭和」という時代が持っている特徴や使命を振り返る。

敗戦から復興し、東京オリンピックと高度経済成長を経て、国際的な都市構造とグローバルプレイヤーとしてのポジションを求め、日本はスタートアップする。

写真集を通して昭和の時代を俯瞰すると、時代の風景そのものが、我々の記憶の中に感情として蘇る。

木村伊兵衛氏から入江泰吉氏に至るまでの優れたフォトジャーナリストを生んだこの時代に感じ取り共振するものは大きい。

 

一人ひとりが時代の持つ息吹を浴び、突き抜けた役割を見聞きしながら手探り状態で新しい未来を創造しようとした。

この圧倒的な未来志向と思考を超えたエネルギーが昭和の大きな特徴だ。

旧態依然の価値観と先行しすぎたグローバリズムを持ち合わせながら、結論が出ないまま次の時代に行く。

そのカオスが、果敢な未来融合のソースを内包していたのだろう。

 

時代は常に転がり続け、より良い価値観も時代に伴って変化していくため、人々はいい意味で洗練されていく。

自分らしく自由を生き、地球を財として捉えられると、地球社会の住人として生きていく未来が現れる。

当時の人々から見れば、今の我々は先行したエコロジストのように見えるかもしれないが、今の暮らしも我々の未来の日常と繋がっている。

時代は区切って理解するのではなく、象徴される時代の波が、次の時代の波とどう繋がっていったのかを知ることが重要だと思う。

 

 

『昭和 -写真家が捉えた時代の一瞬-

出版社:クレヴィス

定 価:2,400円+税

 

2018年2月 5日

現代アートの巨匠

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美術手帖編集の『現代アートの巨匠』を紹介する。

 

現代美術は、現代社会における新しい知的感性であり、時代の変化に対して鋭い批判的視点を内包し、時代のコンセプトや意味性がシンボリックに表現されている。

 

現代社会が感性型社会構造を拡大させ、日本では1964年の東京オリンピック以降、ビジュアルデザインはマスプロ、マスコミによる成長によって垣根なきアプローチが行われてきた。

 

一方、現代美術はマルセル・デュシャンによる問題提起が発端となる。

工業化の時代は、オリジナルはなく社会にどのような生活デザインが市場化するか。

 

現代社会について自問したデュシャンは、大量に生産されていた公衆便所の便器に自身のサインを入れることで現代美術の門戸を開いた。

 

複製芸術によって生活表現が形成されている中、ウォーホルは、マス生産の象徴である表現をキャンベルスープに見出し、モンローやエリザベステイラーなどのプロマイドアートで社会的な存在個人に課題の目を向けた。

 

時代の表現としてラウシェンバーグは、アメリカンコミックの概念を拡大させ、アートへと昇華させた。

 

現代美術は、現代そのものを認知する知性であり、美意識である。

 

かつてパリ、ロンドンが最先端だったアート市場はNYに移り、都市芸術としての

What’s modern? の問いを市場化した。

1964年の東京オリンピックを契機にグラフィックデザインの巨匠たちが、デザインを解放し、CIやブランディングという文脈が生まれた。

 

そしてアートとビジネスが融合する発端となり、多様なコミュニケーションを生み出していく。

 

今後、選択される価値は感性の集約化。音楽も映画も、全て現代の中におけるパーソナリティとしてクリエイティブプログラムとなり、すべからく個人とつながり、時代全体が個の独自なる感受性という価値観が牽引していくこととなるだろう。

 

『アートの巨匠』で語られる都市文化の隆盛は、メディア社会という扉を開き、新しいステージへ。

77人のアーティストをケースとして取り上げ、今だからこそできる整理学を示してくれている。

 

新しく課題解決がスタートアップして、クリエイティブが未来を創造する時に

時代に突きつけられた課題に挑むための一冊である。

 

出版社:美術出版社

価 格:2800円+税

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