私がつくる、未来への処方せん | セルフドクタークラブ 

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フリーハンドで作った心休まる空間

都会では個人店が次々と倒れ、チェーン店ばかりが増殖する。それに対するアンチテーゼがあった。食べていくことを考えれば、軽井沢などの観光地を選ぶ手もあっただろう。いや、個が個らしくいられるのがよい社会なんじゃないか。でも、経営が成り立たなければ存続できない。その葛藤が常にあった。

「最終的には、自分の本来の意思に反して儲かることをするのではなく、横柄な言い方をしてしまえば、お客さんに迎合せず、自分の感性に共鳴してくれる人だけを集める空間を作り、好きなやり方をしていくことに決めたんです」

まずは空間作りから始めた。コンセプトは「天然の石と土と木の家」、そして「既製品は一切使わない」こと。

「ヨーロッパを旅して思ったのが、心が休まるのは人工物ではないということです。さらにいうと、プロがビシッと作ったようなものではなく、素人がフリーハンドで作ったような空間が心地よかったりします」

そしてできたのが安曇野絵本館。土壁や石造り、温かな木の風合い。色も空気も、いるだけで落ち着く空間が、優しく、静かに、訪れる人を受け入れている。

廣瀬さんの感性と勘で、国内外の絵本や作品が選ばれる。廣瀬さんが所有する海外作家の原画展なども行っている。お客さんの反応は様々。「絵本の世界はこんなに奥深いものだったんですねという人がいる一方で、箸にも棒にもかからない人もいる」

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物と出会ったプロセスが、暮らしを豊かにしてくれる

21世紀になり、ITがものすごい勢いで普及をし、コミュニケーションもフェイストゥフェイスではなく、ITを通したものになっている。その影響は絵本の世界にも及んでいる。ここで写メを撮り、実際に買うのはネット通販という若いお客さんが増えている。少し前までは、単なる“絵本”ではなく、安曇野に来た“思い出の絵本”として購入してくれていたのに、今は“ただの物”になってしまっているのが寂しい。

「物と出会ったプロセスが、暮らしを豊かにしてくれるんです」

コンビニやファストフードなど、人の手があまり介在しないところで物を買う生活に慣れてしまうと、人に対して無関心になってしまうのではないか。そんな未来に憂いを抱き始めている。

絵本館の空間を通して、自身の生き方を表現してきた。ここを訪れ、共感し、何度も通ってくれるお客さんもいる。でも少し、経済優先の時代に距離を感じている。70歳を目前に再びやって来た、人生のターニングポイント。この静かな空間で、丁寧に未来と向き合ってみようと思っている。

 

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絵本館の入場券には、飲み物つきとの記載が。淹れたてのおいしいコーヒーがうれしい。「ゆっくりくつろいでください」というオーナーの心づかいが伝わってくる。

 


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ひろせ・つぐゆき 1947年東京都生まれ。立教大学を卒業後、東映エージェンシーに入社。サラリーマン生活を経て、88年に安曇野に家族と共に移住。15年現在、安曇野絵本館の運営を続けている。

山林にひっそりと建つ安曇野絵本館。

扉を開けると、有機的でアナログな、心地よい空間が広がる。

オーナーの廣瀬さんは、東京からの移住組だ。

可もなく不可もなくで、万人に気に入ってもらおうなんて最初から思っていない。

気に入ってくれれば、何時間いてもらっても構わない。

何度だって来てもらいたい。

ここは自身の生き方を表現した空間。

それは、個が個として生きるのが難しい時代へのアンチテーゼなのだ。

 

DNAが喜ぶ場所を再出発の地に

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ヌーベルヴァーグ、ゴダールやトリュフォーらに洗礼を受けた時代。38歳の時、映画で憧れていたパリで、日本の幼児向けのものとは全く違う“絵本”の文化に出会った。陸続きで侵略の歴史を繰り返していたヨーロッパでは、絵本を通じて子どもに、人間の残酷さや国民性などを伝えていた。これは大人が真剣になる世界だ。やってみたい。その表現の場所として選んだのが安曇野だった。

 

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今から30年近く前、当時は安曇野まで高速道路が通っていなかったので、松本で降り、何気なく車を走らせながらこの地にたどり着いた。それは6月のこと。快晴の空にアルプスが映え、水田にはった水にも逆さアルプスが映っている。その風景にDNAが喜んでいる気がした。

「40歳でした。いま思うと、ちょうど人生のターニングポイント。歩んできた道も、これから行く道もなんとなく見える。そしてやり直せるエネルギーも十分に残っている」

安曇野で生きよう。2人の子どもを東京で育てたくないという思いは以前からあった。相談もせず仕事もやめてしまったが、妻も黙ってついてきてくれた。

 


長野で「生活芸術家」として生きる ~クリエイタートーク&出張マルシェ~

日時:8月4日(火)

場所:銀座NAGANO 2階イベントスペース

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第1部 12:00頃~15:00

塩尻市在住のガーデナー・山村まゆさん主宰「garden山屋」の出張マルシェ

土と植物と共に暮らすライフスタイルを体感していただけます。ワークショップの他、ハーブ小物やリースなどを販売します。


第2部 15:30~17:00

移住クリエイター トークセッション

茅野市在住の写真家・ヨガ講師、きくちさかえさんと山村まゆさんが、自然と共にある生活や子育てなどを写真と共に語ります。

※参加費無料

※定員30名・予約制

銀座NAGANOサイトよりお申込みください。


(プロフィール)

 

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山村まゆ

1980年東京都生まれ。都内の農業高校で園芸を学び、恵泉女学園短期大学園芸生活学科に進学。ドライフラワー店や生花店での勤務、スイスでの農業研修などを経て、07年より信州に移住。現在は、塩尻市の知人から借りた古民家で生活する。

 

 

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きくちさかえ

出産育児環境研究会代表。一般社団法人社会デザイン研究所特別研究員。立教大学兼任講師。日本写真協会会員。自らの出産を機に、マタニティコーディネーターとして指導にあたる。現在は研究者、クリエイターとして出産育児の支援や研究、ヨガの指導を行う。著書に『みんなのお産』(現代書館)他。


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人を癒す森に

傍から見れば特異な経歴かもしれない。大学を卒業後、コンピュータ会社に8年間勤めた。自然の中で仕事がしたいと林業に興味をもち、一から勉強しようと母校である信州大学の農学部に編入。すでに35歳になっていた。

大学での勉強は、森を整備する今の仕事に非常に役立つものとなった。先生や先輩に恵まれ、「山の仕事をするなら、チェーンソーの使い方とかではなく、木を覚えなさい。林業の人は木を知らなさ過ぎる」と、今につながる教えもたくさんもらった。林業系ではなく造園系の研究室に入ったのも正解で、木や野草、様々な植物の生態や景観づくりを学んだ。

「健康の森」の森づくりは、主役を交代させるイメージで取り組んだ。まずはアカマツを少し伐ることで、コナラやシラカバなどアカマツと同じくらいの背丈の広葉樹や、森に彩りを与えるサクラやカエデの仲間を活かした。

「人を癒す森とはどういうものだろう? 1つには、季節が感じられることではないかと考えました。春には新緑の芽吹きに喜び、夏には木陰で涼やかな気持ちになり、秋はもちろん紅葉。冬は難しいですが、カフェから美しい雪景色を眺めていただくとか。そういうことが体感できるよう整備しました」

 

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引き算をすることで見えてきた 森の美しさと多様性。

 

自然の包容力と再生力を信じる

森には、「天然林」と「人工林」があり、その中間に「天然生林」というのがある。人の手を入れたほうがよいか、入れないほうがよいかは、森のタイプと目指すべき姿によって異なる。例えば、「天然林」は、日本では白神山地や屋久島の森が代表的。人の手を加えないほうが豊かに循環できる。「人工林」は、人が木を植え、その木を育てるために手入れをする森のこと。ある程度年数が経ったら伐採し、木材として使う。森が荒れているという時の森は、この人工林の話だ。

そして「天然生林」は自然に散布された種が発芽してできた森のこと。里山で暮らす人が木を伐って薪にしたりしながら共存してきた森だ。「健康の森」は手入れを止めた人工林と天然生林がミックスした里山林にあたる。

「自然の包容力と再生力にはすごいものがある。木の種類によっては伐ってもちゃんとまた新しい芽が出るんですよ。人の手を入れるのは必要だけど、木がもつ生命力を信じ、活かしていくことも大切だと思っています」

現場仕事に徹している。130種全ての樹木の名前と生態、生息場所は心得たもの。一日中森の中を見回り、新芽を確認したり、景観を損ねる枝などを伐採したりする。自信をもって言える。「今の仕事は天職です」

 


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