#13 小林 モー子インタビュー

 

 

パリ・モードの舞台裏

 

S:もともとファッションをやられていたんですよね。ファッションを始めようと思ったのはいつ頃からだったんですか?

 

M:中学校くらいの時、いやもっと前かな。その頃から文化(服装学院)に行こうと決めていたんです。小さい時に母に洋服を買ってもらったら、自分で1回全部解体して、生地にあてて、裁断したりしていました。そうしたら2個作れるじゃないですか。その頃はまだパターンっていうものを知らなくて。中学校の時に「パタンナー」という仕事がある事を知って、将来の仕事としてやりたいなと思ったんです。

 

S:6年間パタンナーとして活動後、渡仏されましたけど、そのきっかけは?

 

M:1999年の渋谷文化村で「パリ・モードの舞台裏」という展覧会をみたのがきっかけです。ルサージュ(刺繍工房)が出ていたんですよ。あぁ、やってみたいなって思ったんですけど、お金がなくて...。だからパタンナーをやりながら少しずつ貯金して、そしてフランスに行きました。

 

S:その頃、フランス語は話せたんですか?

 

M:いえいえ、全然。でも一番最初にヒロミチナカノで仕事していた時に、パリコレに何度か行っていたんですよ。そこでフランス語にも興味を持ったんです。ナカノさんは高校生の時に私がバイトしていたお店によく来ていたんです。お酒作ってあげたりとか(笑)ある時、文化に行きたいって話したら、バイトさせてもらうことになって。フィッティングのバイトとかね。文化の学生になってからも夏休みの宿題を、ナカノさんのところでやらせてもらったりしてたなぁ。

 

S:モー子さん茅ヶ崎出身ですよね?

 

M:そうそう。ナカノさんも茅ヶ崎に住んでいたんですよ。ナカノさんが作った「ヒロミチナカノシー」っていう海の家もあるんです。そこで働いたりもしていました。

 

S:なんだかすごい。モーコさんは人を引き寄せる力がありますね!

 

M:いやいや。たまたまです。

 

 

一般的な「刺繍」とは全く違う、特殊なもの

 

S:フランスで通われていたEcole Lesage broderie d'artはどんなところなんですか?

 

M:刺繍のアトリエは昔はいっぱいあったんですけど、オートクチュールがなくなって、どんどんつぶれていったんです。でも工房を残さなきゃいけないって事で、最終的にシャネルが買収したんです。刺繍のルサージュとか、羽根細工工房のルマリエとか。帽子、靴など5社を買収してシャネル社として今は活動しています。でもコレクション前になるとディオールやラクロワなど他社の刺繍も手がけるんですよ。でも、やっぱりフランスにも技術者がいなくなってきていますね。残念です。

 

Ecole Lesage(エコールルサージュ) 

メゾン・ルサージュは、シャネル、ディオール、サンローランなどの美しいオートクチュール・ドレスを飾る刺繍を施し、それら刺繍装飾芸術の技術と伝統を守り続けている世界的にも有名な刺繍のアトリエ。

 

S:どんな方たちと一緒に学んでいたんですか?日本人もいましたか?

 

M:私が行っていた頃は、ちょうどシャネル社になって少し経った頃でまだ日本人はあまりいなかったんですけど、その後増えている様です。当時は若い学生というよりマダムが多かったかな。他にはクロエの刺繍部門で働いている人なども勉強に来ていました。

 

S:ここで初めて刺繍をされたのですか?

 

M:もともとちょっとはやっていたんですけど、ここで学んだ刺繍は一般的な「刺繍」とは全く違う、特殊なものなんです。クロッシェ・ドゥ・リュネヴィルという鉤針状の道具を使ったオートクチュール刺繍なので。

 

S:学校はどのくらい通われたのですか?

 

M:1年間毎日です。一日4時間で週5日。週20時間勉強しないとビザが下りないから。毎日行かなきゃいけなくて本当に大変でした。まだ手が慣れていないのに、完成させなければならない量が決まっていて。だから一年間、いつも徹夜みたいな感じでした。学校に行って刺繍して、持って帰って朝までやって、また学校...その繰り返しです。

 

S:とても難しそうですが一年間で身につくものなのですか?

 

M:100種類くらいのテクニックをマスターしました。卒業してからもたくさんの作品作りや仕事をやってきたのでスピードも早くなりました。

 

 

手芸を超えた何か

 

S:大月雄二郎氏とコラボレーションされましたよね。出会いについて教えてください。


M:蚤の市で出会ったんです。私が行っていた蚤の市ってせまい道を同じ方向にずっと進むしかないから、いろんなところで出会って。日本人同士だし、「ビールでも飲む?」って誘われて「飲む飲む」って感じで。 はじめて会ったときから、大月氏自体に興味を持ったんです。面白い人だなと思って。

 

S:大月氏のことは以前からご存知だったんですか?

 

M:作品はちょっと知っていました。お知り合いになってから、人柄もそうなんですけど、作品自体もとても好きになって。

 

S:コラボレーションに至るまでに大月氏とどんなお話をされたんですか?

 

M:ルサージュって要はオートクチュールのクラシックな刺繍で、なんか「刺繍!」みたいな感じなんです。いろんな材料を使ってモチーフはお花とか蝶々とかそういうものが多い。技術としてはとても興味があるけど、自分の表現として続けていくのは違うなと思っていて。刺繍って「手芸」じゃないですか。だけど、それを超えるにはどうしたらいいんだろうっていつも二人で話していました。「じゃあアートにもっていこう」って事になって。だけど私が1人で絵を描いて刺繍したところでパリの画廊に持って行っても相手にしてもらえないし。「だったら僕の絵でやってみないか」って大月氏が言ってくれたんです。それにこれまで誰ともコラボレーションしたことがないから挑戦してみたいって。

 

 

アーティストになれるように

 

S:コラボレーションのはじまりですね。

 

M:大月氏の絵って、こういう言い方が適切かどうかはわからないんですけど、デザイン化された絵が多いんです。だから私が思う刺繍を表現しやすかった。でも最初はどうしても 私がスパンコールを立てたり、いろんな材料を使って、自分が持っているテクニックを見せたいと思ってしまって。だけどそれをやってしまうと、今度は大月氏の絵が消えてしまう...。だから余計な技術は排除して、ビーズだけでどうやって表現出来るかやってみようってことになったんです。2年間試行錯誤を繰り返して、たくさんの作品を作りました。そしてやっとコラボ展が実現したんです。パリの「ギャラリー ヴァロア」という有名な画廊で。

 

S:大月氏の懐の深さがすごいですね。

 

M:すごいすごい。普通こういうコラボのときって、あちらが「作家」で、私は「職人」っていうスタンスのはず。だから名前なんて表には出ないのが普通だと思うんですけど、自分と同じ様に私の名前を出してくださって。

 

S:「職人」ではなく「アーティスト」としてってことですね。

 

M:そうそう。アーティストになれるようにって事をちゃんと考えてくれてた。

 

S:その頃から「小林モー子」という名前で活動されていたんですか?

 

M:そうなんです。小学校の時に「モットさん」っていうピエロみたいな、なんかへんてこりんなキャラクターを自分で作っていて。パリに幼稚園からの幼なじみがたまたまいて、その子が私のことを「モー子」って呼ぶから自然と周りに定着していったんですよ。

 

S:モットさんからモー子さんに?

 

M:そうそう。大月氏にもフランスの人たちにも「モー子」って呼ばれています。自分では牛みたいであんまり気に入っていなかったけど、みんなから絶対その方がいいよって言われて。インパクトあるし絶対忘れないからって。

 

S:確かに一度きいたら忘れないです。

 

 

自分のライン

 

S:ところでモーコさんご自身も絵を描かれますよね。ほんとに素敵な作品ばかりです。

 

M:ずっと絵日記を描いていたんです。6年間くらいさかのぼって見てみると、始めの頃はまだ自分のラインが出来ていないんですけど、今は自分のスタイルが出来上がったように思います。

 

S:今の表現スタイルが確立したのはいつ頃からですか?

 

M:一昨年の11月にパリの仲間で結成したマルミットのチームで仙台のcotemidi collectionでイベントをやらせてもらったんです。その時に「シャンパン」と「稲妻」 と「お化け」を初めて販売したんですけど、すぐに完売してしまって。やっていけるかもって思ったのはあの時かな。だからその後フランスに一度帰って、すぐにまた日本に戻ってきたんです。帰国してからは作品制作と同時に教室も始めました。刺繍の台も作ってカリキュラムも組んで、かぎ針やビーズ、スパンコールなどの材料はフランスで買ってきました。


S:生徒さんはどのくらいいらっしゃるんですか?


M:15人くらいかな。20代~40代くらいの女性たちです。


★メゾン・デ・ペルル刺繍教室 

フランスから仕入れた様々な材料を使って本格的なオートクチュール刺繍の技術を学ぶ事がで 

きます。詳しくはこちらから

 

 

ないとこまるもの

 

S:芸術活動をするにあたって日本とフランス、どちらが良いと思いますか?

 

M:フランスかな。でも今はアクセサリーを中心に制作しているから日本の方が良いかなって思います。展開が早いので。絵画作品だったらフランスじゃないとだめだと思います。時間が出来たらまた絵画作品もやりたいな。

 

S:ぜひぜひ!モー子さんの絵画作品、ほんとに素敵です!今後の活動、たのしみにしています。では最後にお決まりの質問なんですが、あなたにとって「アート」とは何ですか?

 

M:ないとこまるもの、かな。

 

 

インタビューから数日後、モー子さんは 

ビーズやスパンコールなどの買い付けにパリへ。 

久しぶりに戻った
パリでの様子を伝えるブログからは
 

ものづくりに対するわくわく感が伝わってきて 

彼女自身がアートそのもののような気がしました。

 

M:小林モー子氏  SSAM 久保・森・奥村 201156日 モー子氏ご自宅兼アトリエにて)

 

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