12 三好 愛インタビュー


言葉を形に翻訳する

E:いま藝大の大学院に在学中ということですが、美術を始めたきっかけは何ですか?

M:子供の頃から、絵を描くのと同じくらい小説とか、本を読むのが好きだったんですね。文章表現に興味があったんです。「表現」ということに対して興味があったんですけど、それが絵でもよかったし、文章でも良かった。文学部に行こうかなとも思ったんですが、ちょっと面白いほうへ行こうと思って美大に入ったんです。

中高一貫の学校に行っていて、その学校は進路をわりと早めに決めなきゃいけなかったんですよ。中3くらいで選択を迫られた。そのときに、美術の先生が国語とか数学を選択するように、簡単な気持ちで美術を選んでもいいんじゃないって言ってくれて、「そっかぁ・・・」と、美術の予備校に通い出したんです。

K:先生は見抜いていたんですね。この子は芸術に向いているって。

E:この作風に至るまではどんな経緯だったんですか?

M:そうですねぇ・・・、いつが最初になるのかも分からないんですけど、大学に入ったときを最初とすると、その頃は全く作風が違っていました。
当時は画面があって、自分がいて、「画面に絵の具を置く行為」というのを大切にしていて、絵の具の積み重ねで抽象的な画面をひたすら作る、みたいな。結果としての絵よりも自分と画面の「対決」みたいなものが大事だ、みたいな感じで描いていたんです。だけど、最終的にその絵を提出したときに、傍から見ると何をしているのか全く分からないって言われてしまって。
そのときに、自分で制作をする以上は結局、第三者の目とか、その作品が自分の手を離れた後にどういう立ち位置で社会で生きていくかっていうことを考えなくちゃいけないんだなっていうことを思ったんです。
そこから分かりやすい「形があるもの」にシフトしていきました。

E:それで、このような作品が生まれたんですね。これらはシリーズなんですよね。

M:そうですね・・・。全部、同じレベルの目線で描いてはいるのでシリーズですね。一応、言葉をテーマにしていて・・・。

K:日常からやってきた言葉を表現しているんですよね。

M:はい、動詞シリーズなんです。「動き」の言葉をテーマにしていて。日常の気になるシチュエーションを記憶して、そこから言葉を引っ張り出してきて、その言葉を絵に「翻訳する」んです。

E:へぇ、面白い。そういうテーマの落とし込み方って、どういう風に発見したんですか?

M:やっぱり、本が好きだったっていうのが(理由として)あるのかなって思います。
村上春樹の小説がすごく好きで。その中で主人公がよく「やれやれ」っていう台詞を言うんですね。で、その「やれやれ」っていうただの四文字なんだけど、そこにはいろんな意味があり、いろんな「やれやれ」がある。言葉の持っているそういう性質からいろんなものが引き出せるんじゃないかと思ったんです。

E:言葉という材料に昔から惹かれるものがあったんですね?

M:敏感ですね、言葉には。とくに擬態語とか、オノマトペには昔から関心がありましたね。
 

見る人が作品に入っていけるよう、
タイトルを提示する
 

E:作っているうえでの絶対これはやる、みたいな自分だけのこだわりってありますか?

M:キャラクターっぽくなりすぎないようにしていますね。自分の中で「これ以上いくとキャラクターになってしまう」みたいなラインがあって、それを超えないように気をつけています。

E:描いている最中にだんだん、こういう形に出来上がっていくんですか?

M:そうですね。テーマとなる言葉を引き出していって、形を作っていって、ドローイングしていく中で言葉と形の「やり取り」をしていく。
このカタチならこの言葉にしっくりくるな、とか、この言葉にこのカタチはしっくりこないから、逆に言葉を変えてみよう、とかそういう作業をしていきます。結構主観的な話なんですけど。

E:例えば、「うずくまる」という作品がありますが、その「うずくまる」という言葉をチョイスしたのは、何か理由があるんですか? 

M:それは、道を歩いていて、ブルーシートに包まれた丸っこい荷物のようにものが、ポンって道に置いてあって、それを見たときに「生き物っぽいなぁ」、「うずくまっているみたいだなぁ」って思って。まぁ、直感ですね・・・。

E:その時にやっぱり、「うずくまる」という、言葉に引っかかるんですよね。

M:そうですね、言葉に引っかかります。

E:日常の風景からいつも着想を得ているんですか。

M:そうですね、あんまり美術をする時間と生活する時間を分けてはいないので、日常生活で目にしたものがモチーフになっていると思います。

E:「鼻のびる」はどこから?

M:これは壁に変な隙間があって、そこから鼻が伸びてきたら面白いなって思って。

E:発想が面白いですよね(笑)

M:形が、独りよがりと言うか主観的な部分で出来ているので、それを鑑賞者に見てもらうときに、「何これ?」ってならないように、タイトルも一緒に提示しています。
言葉ってみんなが使っている共通のものだから、例えば「うずくまる」だったら、言葉からまず入ってもらって、「うずくまる」っていう形を表現しているんだって見る人が作品に入っていけるようにしています。

E:タイトルが作品と見る人との橋渡しになっているんですね。

M:そうですね。なので、展示するときもキャプションと作品は出来るだけ一緒に出すようにしています。

E:見る人のことを結構意識して制作しているんですね。描きたいものだけ描くというよりは伝わることを重要視している。

これらは映像化して動かしているんですよね。どうして動かそうと?
三好愛/形ハンター
http://www.youtube.com/watch?v=uJ0SNIBqYio

M:動詞がテーマになっているので、動くべきかなって。

E:おお、なるほど。確かに、いまこの紙の作品を見ているだけでも動いているように見える。動いているのが想像できます。(※取材中、三好さんの作品を目の前にしていました)

M:作品を紙の上だけで出来ることに留めたくはなかったので、他の媒体にも転換できないかなって思って映像にしてみました。

E:それらも自分で作っているんですよね。

M:そうですね。すごくアナログな方式ですけど。

フォトショップとイラストレーターを使って、iムービーで編集して・・・。超早いスライドショーみたいな。
 

複雑なことをしていてもシンプルに見せたい
 

E:村上春樹以外に影響を受けたコトとか、モノとかありますか?

M:ミヒャエル・ハネケという映画監督が好きです。「71
フラグメンツ」という71個の話の断片が繋がってひとつの物語になっている作品があって、それが特に好きですね。短編集的なもの、同じ目線で描かれた全然関係ない話が繋がっている、そういうものにはたくさん影響を受けている気がします。なので、星新一とかもすごく好きですね。

星新一の文庫本の表紙って必ず和田誠か、真鍋博が装丁画を描いていて、それがすごく文章とマッチングしている。そういう、本に対して、言葉に対して絵があるっていう感覚には、影響を受けましたね。

E:どうしてこういうシンプルな形になっていったんですか?

M:・・・、もともとシンプルなものが好きだった、って言うとそれまでなんですが・・・(笑)。

E:いままでSmall Art Museumにご登場いただいた作家さんは、シンプルに向かっていく人が多いなと思います。

M:複雑なことをしていてもシンプルに見せたいと思いますね。あとシルクスクリーンの手法がシンプルなものなので、手法とやりたいことが重なった。

E:この形が、「これで出来た」っていう瞬間はどんな時なんですか?

M:テーマにしている言葉に、しっくりくる形が出来上がったなって自分で思う時ですね。

E:描いているときにこの言葉にハマッたなっていう瞬間があるんですね。

M:あります。これなら大丈夫っていう。

K:これ美術の授業とかで、この形にぴったりの言葉を考えてみましょう、っていうことをやってみたら面白そうですよね(笑)

E:ああ確かに、面白いかも!

M:あはは ()、ありそうですよね。

E:それでは、「暮らしの中の、インテリアとしてのアート」というものがSmall Art Museumのコンセプトなんですが、生活空間に絵を飾ったり美術作品を置いたりすることって、三好さんにとってはどういうことですか?

M:作り手として作った後のことを考えないといけないと思っているので、飾られるっていうことは大事なことだと思っています。
でも、インテリアとして飾られるのであれば、その人の住いとか人柄とかも見たうえで自分の絵とすり合わせたいと、ちょっと思います。環境に合わせてちゃんと作っていけるのが理想だと思うんですが・・・。

E:完全オーダーメイドみたいな・・・。

M:でもそこに自分の表現がなくなったら意味がないとは思っていますが。

E:三好さんにとって表現することとは何でしょう?

M:やっぱり・・・、日常が表現でありたいです。

E:生きていることとイコールみたいな?

M:いやっ、(爆笑!)・・・それはちょっと気持ち悪いんですが。

K:もっとさり気ないことなんですよね。

E:暮らしの中にあることなんですね。生活と美術をすることを分けないって言っていましたもんね。

M:そうですね。やっぱり面白いことは常にそばにあると思うので。

K:三好さんには、面白いものを日常からすくい取る才能があるんでしょうね、きっと。

E:そうなんでしょうね。またそのすくい取る「切り口」も三好さん独特のものですよね。これからもその才能に期待がもてそうです。本日はありがとうございました。

M:三好氏 E:遠藤 K:久保 20101025日 広尾のカフェにて)

 

 

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