#11 芦田 尚美インタビュー

とにかく続けてきた。

E:陶芸の道に進んだきっかけは?

A:小学校くらいの時に、家の近所のお絵描き教室に通っていたんですが、そこの教室は絵だけじゃなくて、「焼き物」もやらせてくれていて最初に形を作って、次の週に乾いたものに色を塗って預けておいたら、一ヶ月か二ヵ月後、忘れた頃に焼きあがって帰ってくる。その時間差が好きで。自分が作ったものが焼きあがると、ちょっと違った雰囲気になっていて、そこがすごく面白かった。
それが心に残っていたんだと思うんですね、今思えば。

E:基礎は大学で固めて・・・?

A:そうですね。美術系大学の工芸科に入って、陶芸を学び始めました。でも、先生も、オブジェとか現代陶芸の先生が多かったので、基礎はやるけど、厳しく叩き込まれたっていうことはなくて、本当に自由にやらせてもらって。ろくろで作るとか、型を使って作るとか、手捻りで作るとか、ある程度いろいろやることが出来きました。

E:では、教わるというよりは自分で試行錯誤しながら今の作風を築いてきたんですね。
磁器作品を作るようになったのは?

A:大学院生になった頃に、磁器の作家さんが講師として短期の講義でいらした時に、磁器の綺麗さを知ったんです。そこからちょっとずつ磁器の制作を始めました。大学を出てから一人でやるようになってからはほとんど磁器だけをやっていましたね。

E:大学を出られてすぐに作家活動を始められていますね。

A:はい、そうです。大学院時代に私がついていた先生から「大学を出て環境が整ったらまた始める、というのはあまり良くない。とにかく続けなさい」とよく言われていたんで、私も卒業後間を置かず続ける方法を、在学中から探していて、
古い一軒家を先輩を誘って共同で借りたんです。そこに電気の窯と電気ろくろを買ってふたりで使い始めて。私が結婚するまでその生活を2年くらい続けました。

E:へぇ、そうなんですね。
それから、陶芸が仕事として成り立っていくまではどんな風に過ごしていたんですか?

A:とにかく続けてきた、というか・・・。
結婚してからも、お義母さんも昔は陶芸をやっていたということもあって「これからも続けたらいい」って言ってくれて。辞めようと思えばいつでも辞められるから、続けることが本当に大事だなと感じた。主に地元の京都で展覧会を開いたりして地道に活動を続けていましたね。その展覧会に来たお知り合いからの紹介がきっかけで、お店などに作品を置いてもらえるようになって、そして作品を買ってくれた方がまた新たな発表の場を紹介してくださったりして。ちょっとずつ活動の幅が広がっていった。

弟がギャラリーをやっていますので、そこで発表させてもらってまた違うお客様が増えたり、ということもありますね。

E:本当にコツコツ、という感じですね。

A:(笑)そうですね。


必要な要素、「空」と「土」。

E:作家活動スタート当初から、現在も定番のAMETSUCHIシリーズを作られていますよね。「AMETSUCHI」というのは「雨」と「土」?

A:漢字で書くと「AME」は「天」なんです。「天地」をアメツチとも読むんですが、その意味からきているんですね。
最初に、磁器の「肌」が見えている下の部分が山で、上の部分が空になっているデザインを思いついて作り始めたんですが、何か良いタイトルはないかなと考えていて、辞書を引いたりしているうちにこの言葉を見つけました。
もともとは・・・、私の家は京都の松ヶ崎で賀茂川(鴨川の上流)をよく渡るんです。そこから北側の北山の方を眺めると、山並みがよく見えてすごく綺麗で、それを「器にしたらいいんちゃうかな」って、ある時思ったんです。
焼き物は、置いて焼くので下の底になる部分は基本的には釉薬をかけられない部分で、どうせならその部分をデザインも兼ねて「山」の絵にしたらいいんじゃないかと。
空と土というのは、食物が出来るためにもそうですが、器にとっても絶対に必要で、ちょうどご飯や料理を盛るにも違和感がない器ができるんじゃないかと思ったんです。

E:ああ、なるほどぉ。

A:私は毎日使えるものが作りたかった。男性女性をあまり問わない定番のシンプルなものをまず作りたいと思って、「AMETSUCHI」を始めました。色をつけていない線だけで山を描いているのは「山の端」という意味で「ヤマノハ」と呼んでいるんですけれど、そのふたつを基本の柱として制作を続けています。

E:毎日使えるシンプルなものを作りたいというのは、何か理由があるんですか?

A:もともと焼き物を始めたのが、「自分で使いたい」という気持ちがあったからだったんですね。いろいろな器を使ってみて、やはり気に入っていても使いにくいものってあるんですよね。持ったり、洗ったり、扱っているうちにどんどん食器棚の奥にいってしまうものって、どうしてもある。「そうなるのは、なんでだろう」という部分を自分が作るときに反映させて、食器棚の前にあるいつも使う器をまずは作りたいという想いがあって・・・。

E:それを追求していくうちにシンプルになっていったと。

A:そうですね。磁器を制作しているのも、陶器より割れにくくて強いからなんですね。あとは汚れにくい。ずっと使っていてもつやつやしていて、カレーやトマトソースが染み込みにくいという理由があるんです。
磁器専門の作り方とかろくろの回し方ってあるんですが、私はそれをとくに学んでいないんです。わりと自由に「土もの」みたいな作り方をしているから、ちょっと厚みがあってより強いんです(笑)。電子レンジに入れても全然大丈夫ですし。

E:芦田さんもお家でご自身の作品を使っているんですね。

A:もちろん使っています。まず出来あがったら自分で使ってみて、どんな使い心地か確認して、次回はここを変えてみようとか、やっています。あとは家族の意見取り入れて改良したり。
自分の中だけでやっているとどうしても世界が狭くなってしまうので、無謀に思える注文とか、「出来ないかも」と思えることもご注文いただいたら、なるべくそれに応えるように作ります。そうすると、「ああ、意外とこうすれば出来た」とか、新しい発見がある。人から言われることってすごくありがたいですね。


アートに「遊びに行っている」という感覚

E:「不思議の国のアリス」シリーズを作られたきっかけは?

A TKGエディションズ(今回の芦田さんの個展会場・この日の取材場所)系列の京都にあるショップで去年、個展をやらせてもらう時、一面に白い壁のギャラリーみたいなスペースだったので、せっかくだから基本の「AMETSUCHI」シリーズだけじゃなくて何か新しいことをしたいなと思ったんです。そんな時にディズニーの『不思議の国のアリス』のウサギの絵が描いた器をどこかのお店で見かけたんです。私は卯年生まれでウサギが好きで、ウサギとか動物のモチーフが乗っている(器の)蓋とかも作っていたので、「ウサギかぁ・・・、アリスかぁ・・・」と思って。アリスに思い入れがあったわけではなかったんですが、それから改めてアリスの原作本を読んでみたんです。そしたら、すごく面白くて。なんかね、おかしいんですよね、話が(笑)。まともに考えていたら付いていけない。支離滅裂で、ぜんぜん腑に落ちないことばっかりで。でもいろんなキャラクターが出てきたりして、可愛らしい女の子が困難に当たりながら強くなって前に進んでいく・・・。ちょっと意地悪だったり残酷だったり、ただ可愛いだけじゃない、そういうのがいいかなと思って、このシリーズを一年前から作り始めました。

E:芦田さんの頭の中で、ウサギや女の子のキャラクターを思い描きながら、形にしていったんですね。

A:そうですね、そして自分の気になるシーンなどを具現化してみよう、とか。

E:どういうシーンが気になりますか?

A:私、小さい頃から狭い所が好きなんです。

E:へぇ、押入れとか? 角とか隅とか?

A:そうそう(笑)、何かと何かの隙間とか。
そういうのに近いシーンとかあるんですよね。アリスがウサギの家に入って、何か飲んだら身体が急に大きくなっていって、ぎゅうぎゅうになって、手は窓から、足は煙突から出すしかないっていうシーンがあるんです。アリスが足をあげているオブジェ作品は、そのシーンを題材にしているんですよ。
あと私、落ちるっていうことが結構苦手で。昔、おばあちゃんが住んでいたマンションに行くとき、エレベーターに乗るのがいつも怖かったんです。落ちたらどうしよう、永遠に落ち続けたらどうしようって(笑)。その想像の恐怖が子供の頃からあったんですが、アリスって最初、穴に落ちますよね、その「落ちること」が気になるというか。しかもその落ちた先では怪我もなく、楽しげな別世界が広がっているって、ちょっとグッとくる。なので、アリスが落ちている姿は作品にもたくさん登場するんですよ。
ランプシェードも作っているんですが、それにも落ちているアリスを描いていたり・・・。

E:面白い。そういわれれば、作品の中に、落ちているアリスがたくさんいますね。
これからもアリスシリーズは続いていきそうですか?

A:どうなんでしょう・・・? まだ分からないですね。ストーリーを追うだけじゃなくて、また違うテーマと絡めたりしてやっていってもいいのかなぁ、とは思っています。

E:基本となる「AMETSUCHI」シリーズとは別に、今回のアリスのように常に新しいテーマというのは探しているんですか?

A:そうですね。例えば展示するお店とか、場所によってそこにフィットする何かをやりたい、展覧会をするたびに新しいテーマを見つけたいっていう想いは常にあります。毎回同じことの繰り返しにならないようにしたいとは思っています。
今回のアリスのような創作は「ちょっと遊びいく」(笑)みたいな気持ちでやっていますね。

E:日常と、特別な非日常みたいな、感じで?

A:そうですね。

E:ご自身の中で制作に対する姿勢とはどういうものですか? アート作品を作っている、という気持ちなんですか?

A:アート作品を作っている、という気持ちはないですね。クラフトがメインというか工芸という意識で、「アリス」のような種類のものを作る時は、ちょっとアートっぽいものに「遊びにいっている」(笑)。

E:作品を創作しているというよりは、生活に密着した日用品を作っているという感覚?

A:そうですね。

E:使ってくれる人が向こうにいて、その人の事を考えながら・・・。

A:考えながら・・・、でも、やっぱり自分が作りたい、っていう気持ちもあります。こういうものを作ったら面白いかも、って。それを同じように気に入ってくれる人がいたら、また続けていけるなって思います。

E:今回のこの展覧会の全体的なコンセプトについて聞かせてください。

A:今回のタイトルは『穴の奥の庭の話』っていうものなんですが、「穴」というのはアリスが落ちる穴でもありますが、アリスの物語の中で鍵穴を覗くシーンがあるんですがその先はすごく綺麗な庭で、でもアリスはその庭になかなか行けないんですが・・・。
穴っていうのは基本的に暗い。でも先は明るいものにしたい。その暗闇と光の対比というのは、いろんなことに応用できる基本的なテーマだと思いました。
AMETSUCHI」でも、今回黒を使った作品もあるんですが、明るい空の時もあれば、ちょっと夜みたいな時もあるし、昼と夜みたいな・・・、そういう基本的なことを違った表現でやれたらいいなと思ってこのテーマにしました。

E:そうなんですね。硬くなりそうなテーマを、芦田さんらしく柔らかな印象でまとめられていますよね。
ところで制作のスピードは速いですか? 作るのにあまり苦を感じたりしないですか? 

A:ものによります。今回展示している鏡の作品とか、大きな作品はかなり慎重になりましたね。基本的にすべて同時進行なので、(小鉢など)数を多く作るものはろくろでどんどん作りながら、向き合う作品には向き合っていく。窯を作品でいっぱいに埋まるようにしてから焼くので、あたまの中で時期を逆算しながら、どうしたら上手く窯がいっぱいになるかを考えて作っています。

E:今はいつもお一人で制作を? 黙々と・・・。

A:はい、そうですね。自宅の一部をアトリエにしていて、窯を庭に置いて、その間を行ったり来たりして・・・。
長い時は寝る食べる以外はずっとやっているときもあります。焼き物は工程がいくつもある。生の土を触るとき、乾いた土を削るとき、絵付けするとき、釉薬かけるとき、焼くとき・・・。おのずとそれぞれの作業のたびに気持ちは切り変わるので、作品にじっといつまでも向き合っているということはなくて、常に動かしている感じです。「作業」という感じの時もあります。3時間しかやらない時もあれば8時間やる時もあったり、窯を焚く時は十数時間、窯を見ながら別の作業をしたり。普通に洗濯とか家事したり(笑)。

E:家事と両立しているんですね。

A:両立というか、まぁ、家族に助けてもらいながらやっています。


なぜだか、山の絵は飽きない。

E:同じシリーズを8年も続けている、その原動力って何ですか?

A:ああ、自分でもびっくりしていますね。基本的に私って飽き性というか、同じことするのは苦手だと思っているんですけど。なんかね、山並みは描いていて飽きないんですよ。毎回同じ形の山ではなくてその都度違う山を描いているんで、全く同じではないですが・・・なんかね・・・これは飽きなく出来るんですよね。

E:このシンプルな線だけの構成なのに・・・。だからこそ・・・?

A:うん・・・。筆で絵を付けている時期もあったんですけど、やっぱり飽きるんですよね。これは飽きない。何なんでしょうね。

E:芦田さんの作品は、いつの時代にもフィットしているし、いつの時代にも新鮮な印象です。私が芦田さんの作品を初めて見たのは67年くらい前なんですが、その時も新鮮だったし、今日見ても新鮮です。

A:そう言ってもらえて嬉しいです。もう飽きたって言われたら、別のこと考えないといけない・・・(笑)

E:芦田さんの作品のユーザーからはどんな声が聞かれますか?

A:使いやすいって言っていただいていますねぇ。使いやすいって言葉にはいろいろ意味があると思うんですけど、例えば無印良品のプレーンなお皿も使いやすいとは思うんですね。でも値段は私の作品の方が高いとは思うんですけど、それを使いやすいって言って買ってくださるというのは、そこにこのデザインも含めて「使いやすい」って言ってくれているんだって思っています。嬉しいですね。
あとシリーズで集めたくなる、ってよく言ってくださるんですよ!そう言われると、また調子に乗って別の形を作ってみようとか、新しいものを提案してみようって思います。

E:確かに集めたくなる。芦田さんの作品には心をくすぐられるものがありますが、制作に対するこだわりは?

A:やっぱり、使いやすさ。洗いやすい、ものが入れやすい、重ねられるっていうこと。あと飲むものは口当たりとかは気になっていて。例えば縁の部分に釉薬をかけていないものは口に触れると違和感があると思うので、そういうものは小鉢として使ってほしい。マグカップでも、やっぱり飲み物の色をそのまま見せたいっていうことで中を白にしているし。色使いとかも大事にしています。

E:やはり生活の彩りとか、楽しさを考えているということですね。

A:そうですね。コーディネートして楽しめる色合いとか、高さも考えていますし。基本的には白とか青が多いんですが、今回はピンクとかも加えたりしています。

ESMALL ART MUSEUMのテーマである、インテリアとしてのアートについては?

A:私の作品が、インテリアとしてのアートになったらいいなと思っていますね。自分のスペースに置きたくなるものを作りたいので、皆さんにも同様に思ってもらうことは目標です。買って満足して棚にしまい込まれるより、目に付く所に置いてほしいですよね。そういった意味で同世代の人が自分の作品を買ってくれて使った感想を言ってくれるのは本当にありがたいですし、それが一番うれしいです。
季節によって器を変えたりするのはやっぱり生活が豊かになりますよね。季節の移ろいを家の中でも楽しむ、というか。ちょっと勇気を出せば絵画なども買えますから、それを家に飾って、ホッとしたり、「ああ、家に帰ってきた」って思ったり、そういうのって大切ですよね。

E:そうですよね、本当に同感です。
それでは最後に、芦田さんの将来の展望とかありますか?

A:うーん・・・、やっぱり、ずっと作っていたいですね。絶対に焼き物で、ということは今のところ、そこまで強く思っていないですけど、でも今は楽しいからやっている。
縁側で編み物するのでもいいんですけど、何か作っていたいなぁって思います。

E:今日のお話を聞いていて、芦田さんって「継続の人」だなって感じました。ずっとやり続けるって、なかなか出来ないことですよね。きっとこれからも作品を焼き続けられるんじゃないかと思います。そう希望しています。

A:どうですかね(笑)。楽しみにしていてください。

A:芦田氏 E:遠藤 2010917TKGエディションズ銀座にて)

 

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