#07 熊谷 直人インタビュー


絵が出来ていく過程と、植物が育っていく過程。


E:今回のシリーズは、すべてモチーフは植物なんですよね?


K:そうです。藝大に入った頃、学校のある茨城県の取手に住んでいて、わりと自然がある所だったので植物を普段から生活の中で見ていて、目に入ってくる風景としてはいちばんそれに興味があった。それらをちょこちょこ描いているうちに、植物を描いていくことが増えていきました。描きたいものを描いていたら自然とそうなったっていう感じです。

植物に絞って描き始めたのが一年生の終わりくらい。そのあとは結構いろいろな方法で描いてみたり、いったん植物から離れたりということをしながら、いまの作風になるきっかけとなった絵を作ったのは2003年頃で、それを描いているときに今と繋がるような感覚があった。


E:どんな感覚だったんですか?


K:上手く言えないんですけど、単純に筆を動かしている間に「この感じで絵を作れそう」って思ったんです。いまの作風の、絵の具がフワッとボケてる感じ、ピンボケみたいな表情を作り始めたのはわりとその頃で。植物をずっと描いてきたんですけど、その前は、緑色の植物をそのまま描いたりとか、わりと分かりやすかった。2003年のそのときは、見たままに囚われている感覚っていうのがなくなって、植物描きながらも「自由に動けるような感じ」というのが分かった。あと自分にしっくりくる油絵の具という素材の扱い方が、なんとなく体感的に掴めたんです。


E:植物に惹かれる理由は?


K:きっかけは「姿かたち」。単純に綺麗だなと思って描き始めたけど、姿かたちをただ描いていてもしっくりこなくて、でも植物が描きたいと思って描いて、というのを繰返していました。

最近少しずつ分かってきたのは、植物の在り方というか、姿かたちも含めての存在感だったり、目で見たときの「感触」みたいなものだったり、自分にとっての広い意味での植物というものに興味があるということ。日常にありふれているんだけど、例えばご神木とか樹木信仰みたいな、すごく崇高な非日常的な意識とも連絡がつくような存在。植物という存在自体の幅の広さというか、多様な感じが特別だと感じています。

あとは姿かたちにしても、すごく・・・、もちろん目の前にあるものだから、実在感があったりするんだけど、何というか・・・、もっと、かたち自体、融通無碍(ゆうずうむげ)で環境に合わせてどんどん変化して、抽象的なんだけれど、存在感がとてもリアルで実在感があるというギャップ、どっちも兼ね備えている感じが好き。

絵の具という素材と自分の体が出会ったときに・・・、目の前にある物の姿かたちを描いていくような作業を、僕は全くしないんですね。絵の具の質感や、塗る感触に結構引っ張られて、抽象的な、絵の具の都合を優先した色や形がどんどん出てくるんですけど、それを現実の世界と連絡つけるというか、繋げるときに植物だったり、自然だったり、そういうものがいちばん(モチーフとして)使いやすい。結構いろんな理由が複合的に重なって、いま植物を描いていますね。


E:描いているうちに、そういうご自身の思いや考えが分かってきたのですか?


K:感覚的には無意識にあったと思うんですが、論文を書かないといけないから、最近それらを言葉にしていく作業をしています。そうしていると自分でも「そういうことか」って分かってきて。これからいろいろ掘り下げていくと別の理由も出てくると思う。あんまり感じていることを言葉にしないので、僕は。

その絵が出来ていく過程も、植物が育っていく過程にすごく繋がっていて、そこに任せて描いた方が豊かなものが出来る気がする。自分が絵を描く前に意図していることが多少あったとしても、それを超えていかなきゃいいものが出来ないような気がしています。


E:確かに、植物の派生というのは人知を超えたもので、自分の考えの幅以上のものがあるから、そっちに委ねた方がいいですよね。


K:委ねるという感覚は結構ある。流れに身をまかせるような。何の流れか分からないですけど、大げさにいうと世界の流れみたいな。


E:描いているときっていうのは、何かを見ながら描くんですか?


K:作品を作るときは、見ることはほとんどないです。絵と自分の一対一の関係ですね。でも、自分と画面という関係の中に、実在のもの、実際に植物を目の前に置いたりして、それを見ながら描いて、いままでの関係を崩してみると、また作品が変ってくるのかなって思っています。そのうちやろうと思っていますけど。


E:植物以外に興味のあるモチーフはありますか?


K:ずっと、やっぱり興味があるのは「人」ですね。作品とは別のドローイングではよく人物を描きます。


E:植物と似ている存在ですよね。


K:そうですよね、絶対繋がっている。自分自身も人間だから、人物はすごく描き甲斐のあるモチーフだと思うんだけど、結構ひとつのことをずっとやっているのが自分には合っているので、いまやっている仕事に区切りがついて、次の段階にいったら、新たなモチーフ、人物とか、風景とかも描ければいいと思いますね。
 


内面を表現するという意識はない。
 


E:手法、描き方についは、独自のものはあるんですか?


K:手法はね・・・、たまに聞かれるんてすけど、特別な描き方はしていないですね。


E:私のような素人から見ると、普通に筆で描いたようには見えない・・・(笑)。一見、油絵に見えない不思議さが、熊谷さんの作品に対する第一印象でした


K:ああ、そうかも知れないですね。いわゆる一般にある油絵っぽいイメージとは違うかも知れないですね。写真で撮った自分の作品を見ると、水彩とか水墨の、水の力でボケる「滲み」みたいに見えるときもあるみたいですけどね。

僕の場合は、手で作っていくのが重要だという想いがあります。油絵の場合ですけど「滲み」を手で作っていく。絵の具と手が出会って、それらが出来ていく。

 

E:「産みの苦しみ」みたいなものは?


K:僕はわりと淡々と描いています。あんまり自分の意図とかイメージを作品に出すとか、内面を表現するっていう意識で絵は描いていない。無意識のところではもちろん自分の意識と繋がってはいると思うんですが、意識的に「そういうところ」と繋げようとは思っていなくて、むしろ自分の意識とか自我みたいなものを作品と関連付けたくない。



作品自体を植物の存在みたいに。



E:ドイツで絵を勉強した経験がありますよね、作風に影響は?


K: 2年いたんですが、ガラっと変ったことはないです。ただ、ヨーロッパの学生の絵を見たりして、いろいろ気づいたことはあります。自分では全然思っていなかったけど、向こうの人は僕の作品をアジアっぽいって言っていて、無意識に日本人っぽさがあるのかなって思いましたね。その関係に飛び込んで並んでみると、気づかなかったことに気づく。それだけでも大きなことだと思いますね。


E:ドイツで作品の展示などはしたんですか?


K:滞在中一度は展示をしたいと思っていたので、作品を持ってギャラリーなどに作品を見せに行きました。気に入った所はコンクリートの壁の空間だったんですけど、自分の作品が似合いそうって思って。植物が似合いそうな場所だったんです。

僕の作品は植物を描くっていうよりは、絵の存在自体を植物みたいにしたいなって思っているんです。感触として。で、そこは合うなって思って、絵を見せて話したら展示が決まったんです。


E:作品自体を植物みたいにしたい、とは?


K:感覚的に言っているので、説明しにくいんですけど。絵って、フィルターがかかっている気がするんです。画面があって、その奥に描いてある、みたいな。そういうのよりも、もっと直接的に、厚みとか大きさとか、絵の具の筆触など全部含めた物質として、存在として目の前にあるような、もっと作品を自立させたいっていうか。それがポンと目の前にあって見たときに、見た人が感じるものを、自然物を目の前にしたような感覚にしたいっていうことです。自然物にしたいわけではなく、ただそこに近づけていきたい。

目の前で絵を見るということをすごく意識していて、いまはネットで絵も見られて、情報も手に入れやすい時代なので、だからこそ、って言うのも変ですけど、目の前で絵を見ることは大事だと思います。

何が描いてあるとか、色はどういう色かっていうのは写真とかでも分かるけど、絵の要素ってそれだけじゃないと思うんです。僕自身が図録で見るのと、実際見るのと全然違うっていうことを何回も体験してきているし。なので、ネット上や写真で見ることもいいことなんですが、絵を作る人間としては、目の前にあること、リアルに同じ空間に絵があることをもっと意識して作るべきだと思います。


E:体験、ですね。


K:どういうスケールなのか、光が当たるとどうなるのかっていう質感なども含めて。僕の絵だったら、絵の具のマチエール(素材、材質によってつくり出される材質的な美術効果)があったりとか、光の当たり方で艶が出たりとか、絵の大きさがそれぞれ違ったりとか、それも意識して描いているつもりなので。

でも、このsmall art museumの主旨と全然違いますね、すみません・・・(笑)。


E:いえいえ(笑)。この企画がそこへ行き着く機会になればいいと思います。

生活の中の、インテリアとしてのアートについてはどう思いますか。


K:僕は、いいんじゃないかと思います。自分がいいと思うものを突き詰めて作っていくけれど、それが社会と、大げさにいうと世界と触れ合って、美とか美術が成立すると思うので、その触れ合い方のひとつとして「インテリアとしてのアート」っていうのはあると思います。自分が作ったものが世界にどう受け入れられるか、すごく確認していきたいことで、例えば自分の作品を誰かが部屋に飾ってくれたりすることは、「有りか、無しか」というよりも、「ああ、そういう風に観るんだ」みたいな気づきがありますよね。


E:なるほど。では最後に、熊谷さんにとって表現することとは?


K:(苦笑)それ難しいですよね。何を言おうかな・・・。いま現在の自分の話をすれば、美しいと思うものを作るっていうことですね。極端に広く言っちゃえば、「頑張る」というか(笑)、力を発揮して生きていくっていうことだと思うんですけど。美しいと思うものを作るっていうことを表現だと思ってやっていますけど、10年後20年後に何やっているか分からないし。自分なりに考えて何かやっていると思う。それはそれでそのときの自分の表現だと思うので。そういう感じかな・・・、こんなんで大丈夫ですか?(笑)


E:十分、素敵なお話をいただきました! ありがとうございます。


(K:熊谷氏 E:遠藤 2010年4月23日 広尾のインテリアショップSIGNにて)


 

 

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