#05 広川 智基インタビュー


土地の匂いが薫り立つ、夜


E:夜の風景のシリーズを撮られていますが、夜というテーマをみつけたきっかけは?


H:高校生のときから写真を撮り始めて、当時は何を撮っても面白かったんですが。うちの父親もカメラマンで、砂漠の夜の岩の作品を撮ったりしていたんですね。初めはその真似だったと思うんですけど、砂漠に対して、じゃ夜の街を撮ったらどうなんだろうなって思ったことが始まりです。

その頃は夜を撮っているというより、長い間シャッターを押していて、そこへ車が通ったりすると、ライトの光とかが映るじゃないですか(シャッター速度を遅くして撮影すると移動するものが画面上に軌跡を残すなど、視覚と異なった幻想的な世界を描写できる)、写真の教科書に載っているようなことなんですけど、当時は何にも知らないんで「俺って新しいかも」みたいに思った(笑)。そういうことが楽しくて続けているうちに、ある一枚に、意図せずに撮ったものだったんですけど、なんだか不思議な写真があった。それが夜を撮り始めたきっかけですね。

夜を撮ろうと意識してからは、常に三脚とカメラを車の中に積んでおいて、どこか遊びに行ったときでも、気になる所があったらパッと撮ったり。家の周りを三脚とカメラ担いで、気になる所を撮ったり。それをずっと続けてきたという感じですね。もう12年くらいになる。


O:何が気になってシャッターを切っているでしょうね?


H:それをずっと分からずに撮っていたんですよね。何に反応しているかは上手く言えない。最近ちょっとずつ言葉で説明できるようにしようと思っているところで。

でも、写真を始めた当時のあの感覚っていうのは、特別だったなって思う。二年前くらいに個展をやったとき、若い頃の自分の作品を見る機会があったんです。10年ぶりくらいに見たら、「こんな恥ずかしい写真撮って・・・」っていう感じだったんですが、その中にもいまの自分が見てドキっとするようなものがあった。当時は気づかなかったもの、技術的にじゃなく、若いとき特有の全部をさらけ出している感じにドキっとした。


O:いまの方が、シャッターを切るときに客観的思考みたいなものが働く?


H:いや、いまでも衝動みたいなものがあって撮っているとは思うんですけど、当時に比べると客観的にはなっています。いま、自分の作品について少しずつ言葉で説明できるようになっていることは、必要なことだと思うんです。でも当時の自分にはそれが全く出来なかった、というか必要なかった。そういうところがドキッとさせた要因なんじゃないかなって思いました。「そこにしかないもの」っていう感じが。


E:夜をテーマにしている理由を、いまの広川さんの言葉で言うとしたら?


H:僕が思ったのは、旅行って皆好きだと思うんですけど、旅行先の見たこともないような場所の・・・なんて言うかな、知らない場所の空気とか匂いを求めて旅行していると思うんですけど、ただ、観光地とか、そんな所に行かなくても、普段の日常に・・・、(しばし考えて)

東京って、ネガティブに捉えられがちじゃないですか。もちろんネガティブなところもあるけど、僕は東京で育っているから、そうじゃない部分もいっぱい知っている。そういうものを僕は切り取って(撮って)いるのかなって思います。日常の中に感じる非日常を撮っていたいというか。

最近感じるのは・・・、ちょっと話がまとまらないんですけど、ガーッて言っちゃっていいですか?


E:・・・! はいっ。(ちょっと身構える)


H:あの・・・、森のような自然に対して皆、尊敬の念みたいなものがあったりするじゃないですか。でも都会では、(自然への尊敬の念を)無視して人間の住みよいように自然を造り替えて、その土地の匂いみたいのを無理やり消していると思うんです。でも、そんなことをしていても、その土地の匂いだったり、薫りだったりとかが滲み出ている場所っていうのがエアポケットみたいにあるんじゃないかと思う。そこを写していければいいかなって思っていて・・・。自分にとってそれを感じられるのが、いまは夜が多い。


O:夜の方が、土地の匂いとかが滲み出ている場所を感じやすいっていうのはあるかも知れないですね。動く生き物が寝静まっていて、都会の活動も一時休戦状態になっていると・・・、


H:そうそう、見えてなかったものが、見えてくるみたいな・・・。


O:広川さんの写真には、何かが「滲み出てくる」感じがある。風景の中の時間が、流れているというより、ふつふつと滲み出てくる、というような。そういう作品の魅力が、画になったときに夜の風景の方が視覚的にも感覚的にもより浮き彫りになるのかなって思う。


H:それは、あるかも知れないですね。

でも、さらに言うと、昼間でも場所がもつ空気の薫りみたいなものを感じるときってあると思うんで、ライフワークとしてこれからは、夜も当然撮り続けますけど、昼間の土地の薫りが滲み出ている感じも表現していけるようになったら、もうひとつ成長できるのかなって思っています。


E:基本的には感覚とか直感的なものが大きいんですね。作品を撮るスタンスとしては、それが写真家のあるべき姿だという気がします。



出会いをつくれる、という強み

E:創作のインスピレーションは、どこから受けているんですか?


H:普段の生活全部からですね。もちろん絵を観に行ったりとか、映画を観に行ったりとか、そういうところから得ることも大きいですけど、本当に日常の中にいくらでもあると思うんですよ。それこそサッカー観ているときとか、街歩いているときとか、すべて(創作に)繋げるようにアンテナを張っていれば、どこででも何からでもインスピレーションみたいなものは得られると思う。でも最近はサッカーし過ぎていて反省はしているんですけど(笑)。


E:被写体との出会いって、どんな瞬間なんですか?


H:例えば街を歩いていたりすると、「浮かんでくる」っていう感じですかね。撮らなきゃいけないところが見えるというか。風景とか、人とかでも。
 

E:へぇ・・・、「見える」んですかぁ・・・。


H:そういう被写体との出会いは、日常の中にいくらでもあるんですが、去年30歳になったので最近は何か新しく出来ることないかって考えているんですね。そこで、はじめは自分の恩人を撮っていこうと思って、昔の担任の先生に会いに行ったりしたんです。そこから発展して、先日、漫画家のますむらひろしさんにもお会い出来たんです。ますむらさんは僕の創作に影響を与えた人なので、そういう人の写真を撮ってみたいと思いました。それで、ホームページからダメもとでメールをしてみたら、なんと会ってくれた。

被写体、とくに人物ですけど、カメラマンであることで、それを理由に会いに行けたり、出会いをつくれるという強みはあると、最近思いますね。いまそうやって、発表するかは別にしてライフワークとして、お世話になった人とか好きな人を撮って回っているんです。



「そのとき」をカタチに残していきたい。

E:広川さんにとって、表現することとは?


H:これ、恥ずかしいですけど(笑)、一生続けていきたいこと。その時その時の自分にしか感じられていないことを、カタチにしていろんな人に見てもらって、それに誰かがが共感してくれたり、何か感じてもらえることで、やっていて良かったなって思える。すべての人に伝わるっていうのは当然無理だけど、一人でも多くの人に共感してもらえたらいいですね。

高校生のときに、好きなバンドのメンバーに会う機会があって、そのときにその方に印象的なことを言われたんです。『若いときは、本人は気づかないけど、若いときにしか感じられないことがある。それは30歳くらいになったら忘れるっていうことにも気づかずに無くなってしまうから、どんなカタチでもいいから、そのときに出来ることを目に見えるものにして残しておくといいよ」って。

そういうことって若いときに限らず、いくつになっても、その年代その年代で、あると思う。だから、いましか出来ないものに一生懸命取り組んでいたいですね。落ち込んでいるときでも、そのときを残していきたいですし。仕事の忙しさでペースが落ちちゃうこともあるだろうけど、とりあえず作品はずっと作り続けていきたいです。


E:インテリアとしてのアートをどう思いますか? 自分の作品が生活空間に飾られることに抵抗はないですか?


H:ないですね。むしろ、いいことだと思います。皆もっとアートを部屋に飾ればいいと思う。

よく絵や写真のことを「わからない」って言う人いるじゃないですか。でも、そんなの誰が何と言おうと、自分の感覚で好き勝手に感じればいいのになって思う。


E:皆、つい言ってしまいがちですけどね。アートに対して、学問的な理屈で理解しなきゃって思うのかな。


H:スポーツみたいに一目瞭然に優劣が決まる世界ではないし、だからこそ自分が「キレイ」とか「面白い」とか感じたら、その感覚を素直に受け入れればいいと思うんですけどね。

単純に見る人が感じればいいと思うんですよ。僕もいま自分の作品について「その場所の匂い」とか、いろいろ語っちゃったんですけど、それを見る人が感じなければそれでいいと思っているし。

「わからない」で終わるんじゃなくて「わらないけど、なんとなく好きだな」「なんとなく好きになれないな」っていう感じでいいと思いますね。

高価なものである必要はないから、ポスターとか、部屋の中に好きなものをちょっと飾るだけで心の余裕みたいなものが出るんじゃないかな。いま不景気ですけど、そういうときこそアートに触れた方がいいと思いますね。


(H:広川氏 E:遠藤 O:小沼 2010年3月2日 南平台のイタリアンレストランにて)

 

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