|
うらわ美術館では学芸員の滝口明子さんからブラティスラヴァ
世界絵本原画展の成り立ちや特徴、日本人作家の応募・入選
状況、さらにはチェコ・スロヴァキアという土地について丁寧に
解説していただけましたのでご紹介します。

第22回ブラティスラヴァ世界絵本原画展の図録
表紙を飾る絵はグランプリ受賞作品
タシエス(スペイン)の「まいごの幼子」の一場面が
使われています
世界平和のために。そして次世代を担う子どものための
絵本の発展のために始まったコンクールです
—日本の巡回展は、いつから、どのようなタイミングで開催されて
いるのですか?
滝口: ブラティスラヴァ世界絵本原画展(以下BIB)は1967年の
第1回展以来、チェコとスロヴァキアの分離で揺れた1993年を
除き、2年に1度スロヴァキア共和国の首都ブラティスラヴァで
開催されています。
日本では2000年以降巡回展が開催されるようになり、現地開催
の翌年に1年間かけて日本各地を巡回します。
現在うらわ美術館で開催しているのは22回目のBIB2009の巡回
展で受賞者11名(うち1名は日本人作家)と出品した日本人作家
8名の原画作品、そして各国の出品絵本を展示しています。
ここで開催される前に2010年の夏から平塚市美術館、千葉市
美術館、飯田市美術博物館と飯田市川本喜八郎人形美術館
(同時開催)、足利市立美術館の4カ所を回り、うらわ美術館が
最後になります。
次のBIB2011は今年9月1日あたりから現地での開催がスタート
し、日本には来年の夏にまたやって来ます。来年はうらわ美術館
が立ち上がり館となっているので続けて1年後の開催となります
が、原則としては2年に1度の開催です。
—開催される美術館は毎回、同じところですか?
滝口: 中核となる美術館を除くとその時々によって違います。
うらわ美術館では2002年からずっと開催しています。
—BIBの審査基準は、すでに出版されている絵本であることと、
1作家につき原画10点だとうかがいましたが、展示も10点される
のですか?
滝口: 現地では、2×1メートルの決められたスペース内に展示
するという制約があります。たとえば今回、金牌賞を受賞された
智内兄助さんの作品は各1点が大きいものでしたので、展示が
難しかったそうです。
—賞の形態はどのようになっていますか?
滝口: 1位が「グランプリ」で1名、2位が「金のりんご賞」で5名、
3位が「金牌賞」で5名となっています。
—日本での国内選考の際、出版社からの強力なプッシュといった
ような影響が及ぶことはありますか?
滝口: それはまったくありません。あくまでも、(社)日本国際児童
図書評議会(JBBY)の呼びかけによって、各出版社から様々な
作品が寄せられたものの中から、5名の選考委員が国内選考を
行います。1国あたり15名までが応募可能ですが、今回日本から
は作家9名の作品が選ばれました。
ちなみに今年4月にうらわ美術館で展覧会を行った堀内誠一さん
も審査員をなさっていました。
![ブラティスラヴァ図録.jpg]()

学芸員の滝口明子さん
北欧の絵本に出てくる妖精のような
チャーミングな方で、あまりにも
”ブラティスラヴァ”に似つかわしくて
嬉しくなってしまいました♪
—ところで滝口さんご自身はこれまで絵本とはどのような関わり
をもってこられたのですか?
滝口: うらわ美術館の学芸員として5年ほどやっています。実は
専門は絵画修復で、以前は修復の仕事をしていました。美術史の
分野ではイタリア美術です。私がうらわ美術館に入った年の夏に、
美術館がBIB展を開催していましたので、それ以来、本当に少し
ずつですが絵本のことを勉強してきました。
—ずっと絵画に携わってこられたのでしたら、絵本にもすぐに馴染
めたのではないですか?
滝口: それがまったく違ったんですね。普通の絵ですと平面に
描いて様になればいいですし、サイズも制限がありません。
ところが絵本は見開きで1枚の絵を見せると、センターラインが
出来てしまう。また本を開くときの角度によって見え方が違って
きてしまう。絵画と同じように平面で見ていいなと思っても、絵本に
なると残念に見えてしまうことがあって、難しいなと思います。
—印刷したときに発色が違ってしまうこともありますね。
滝口: 日本やアメリカ、イギリスなど印刷技術が発達している国
ならいいのですが、そうでない国もあるので、BIBでは各国の印刷
技術の格差を考慮して、絵本ではなく、原画による審査になって
います。そのことによってより多くの国の参加や受賞の可能性が
広がるのです。
—そのための原画10点による審査というわけですね?
滝口: それと原語によるテキストの問題もあります。今回出品した
37カ国の作品それぞれの絵本には原語による文字が付いている
わけです。ところが本選では37カ国すべての原語を審査員たちが
読めるわけではありません。
翻訳されたテキストは付いていますが、やはり原語で読んでこそ
の魅力、味というものがあるので、言葉の壁を取り払うためにも
原画に特化した審査になっているのです。
それでも審査上の課題はまだまだ残されています。
絵本コンクールで、絵本でこそ活かされる絵は評価されていないと
いったことなどについては、苦心しているようですが残された課題
です。
—そもそもBIBが始まったきっかけはどのようなものだったので
しょうか?
滝口: BIBが始まった1967年というのは、まだ東西冷戦構造が
あった時代です。そんな状況の下、世界平和のために、そして
次世代を担う子どもたちが読む、絵本の発展のために始まり
ました。BIBにはとても熱い思いが根底にあるのです。
—ボローニャ展との比較になりますが、あちらは個人が直接
応募できることからも、クリエイターと版元のトレードの場といった
色合いが濃いように思います。対してすでに出版化されている
作品で国内審査を経てきたものを審査するBIBの最大の目的は
何になるのでしょうか?
滝口: BIBに入選することでそれぞれの国でその絵本に興味を
持つ人が増えると思うのです。つまり自国の絵本をとりまく状況の
アップにつながっているのではないでしょうか。
チェコ・スロヴァキアという土地は昔から他国の支配を受けて自国
の民族性や母国語を否定されていた時期が長かったのです。
そうした中で起きた民族運動で自国の文化を子どもたちにいかに
伝えるかということで絵本は深く関わってきました。
ですからBIBは、平和への願いとともに各国の子どもたちに自国
の文化や言葉を正しく伝えるということを重要視しているように
思います。文化としての絵本を大事にするということをひしひしと
感じますね。
海外と日本の作家の絵の違いが面白い。
それが自国の今の絵本文化だと言えるのかもしれない
—今回で22回目ということですが、受賞作、出品作の特徴や傾向
などでお気づきになったことはありますか?
滝口: 毎回感じていることは、重厚な作品が選ばれているという
ことです。海外の作家さんは自分の技術をスマートに表現される
方が多い。一見してその技術力がわかる絵が多く、そういった絵
がまた好まれる。一方、日本の場合はもうちょっと子どもの目線に
下りよう下りようとしている、言ってみれば“へたうま”の絵を描く人
が多いように思います。
—長新太さんのあたりからその傾向はありますね。
滝口: その通りですね。最近の日本の絵本は、長新太さんの系譜
が好まれているようですが、BIBでは受賞が厳しいのです。
ただ、“へたうま”というのは上手くなければ“へたうま”ではないん
ですよ。その“うま”の部分がなかなか伝わりにくい。それで毎回、
悔しい思いをしているんです。
たとえばささめやゆきさんの絵ですが、海外の人にはこの絵の
良さが伝わりにくい。でも、絵本の原画として評価するべき点が
多いと思うのです。
どういうことかというと、自転車がカーブを曲がる場面の絵を絵本
にして見ると、角度が付いてカーブが急カーブになってスピードが
加速されているかのように見ることができます。
また映画館の場面では、見開きで展開することによって、映画館
の広さが強調されるという効果が生まれます。
こういった平面だけでは分からない工夫がなされているということ
で、秀逸な作品だと私は思うわけです。

日本からの出品作の一つ
ささめやゆきさんの「だんまり」。
絵本になったとき、このカーブはさらに鋭角になり
ものすごいスピードで通り抜ける絵が生まれます
ⓒささめやゆき
—たしかに原画だけでは分からない絵のチカラが存在しますね。
滝口: そうなんです。だからうらわ美術館では、必ず原画の近くに
絵本を置いておくんです。BIBの展示スタイルは、各美術館に任
されていますので、すべての美術館がそのスタイルとは限らない
のですが、少なくともうらわ美術館では絵本を見ていただかなくて
は本当の良さが伝わらないと考え、そのスタイルでやっています。

金牌賞を受賞した 智内兄助さんの「ぼくがうまれた音」。
絵本の文章は近藤等則さん。
瀬戸内、来島海峡の渦潮を聞きながら生まれ育った
世界的なジャズ・ミュージシャンの文と画家の絵。
同級生だった二人の芸術家にとって
処女作の絵本だそうです
ⓒ智内兄助
—今回受賞された智内兄助さんの作品はそういう意味では海外
の審査員にもわかりやすかったと言えますね。
滝口: 昭和の香りが色濃く、とても日本的であるし、海外の重厚な
作品にひけをとらない厚みがありますね。
それでも国内選考で、海外の基準に合わせて作品を選ぶ必要は
ないと思うのです。今、日本の絵本で評価されていることを基準に
選ぶということでいいと思います。そしてそれこそがBIBの精神に
沿うわけですから。
—今の日本の子どもたちが好きな絵本、大人が子どもに与えたい
絵本、それらが国内選考に残っていることが大事ですね。
滝口: 賞がすべてではない、文化としての絵本、ということに尽き
るのではないでしょうか。
★ BIB2009その他の日本からの出品作

あべ弘士「ねこのおいしゃさん」
ⓒあべ弘士

荒井良二「えほんのこども」
ⓒ荒井良二

こしだミカ「ほなまた」
ⓒこしだミカ

スズキコージ「とんがとぴんがのプレゼント」
ⓒスズキコージ

高畠純「どうするどうするあなのなか」
ⓒ高畠純

つかさおさむ「おばあのものがたり」
ⓒつかさおさむ

山口マオ「わにわにのおでかけ」
ⓒ山口マオ
うらわ美術館でのBIB2009年展は8月31日まで。日本の絵本と
世界の絵本、原画と絵本、それぞれを比較できる楽しい展示会
です。残り日数はあとわずか。
ご都合の良い方はぜひ行ってみてください!(ミヤタ)
|