江戸美学研究会|「江戸のデザイン」と「江戸の生活文化」を研究するクラブ「エビケン」です。

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江美研寺子屋スペシャル
「もっと気楽に!歌舞伎入門-1」


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日本が世界に誇る古典芸能、歌舞伎。演劇好き、特に江戸文化に興味のある方なら歌舞伎通の方も多くいらっしゃることでしょう。しかし一方で、まだ歌舞伎を観たことがない、興味はあるし、観に行きたいけれど、敷居が高くていま一歩踏み出せないという方も。そんな方たちに向けて江戸時代から続く日本のエンターテイメント、歌舞伎をもっと気楽に楽しむコツを、長年にわたり歌舞伎の普及に尽力されてきた塚田圭一氏にうかがいました。

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「歌舞伎は感性で楽しんで」
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塚田さんはこれまで、多くの人に歌舞伎に親しんでもらいたいと様々な活動を通じてその普及に尽力されていらっしゃいます。 最近の活動の中で、お気づきのことはありますか。


この七月に平成中村座ニューヨーク公演で、アメリカへ行った時に感じたことです。外国でのパーティーに現地の日本のビジネスマンが出席されると、その場で歌舞伎や能などの話題が外国の方から出るんです。すると、それまで一度も歌舞伎を観たことがないという方は困ります。「日本に戻ったら歌舞伎の勉強しよう」なんて思われる人が結構いるんですね。 ブロードウェイのミュージカルは、たとえ言葉が充分に理解できなくても、多くの日本人が楽しまれています。踊りが良かったとか、音楽が良かったとか、衣装が素敵だったなど。外国のミュージカルは純粋に楽しめているのに、日本の歌舞伎となると、なぜだか構えてしまうんですね。 あの長唄は何を唄っているんだろうとか、そういうことにこだわってしまう。最初から勉強しよう、研究しようとせず、もっと気楽に、感性で受け止めてもらいたいですね。

“歌舞伎は特別なもの”というイメージを持っている方は少なくないんですね。ここまで敷居が高くなってしまったのは、なぜでしょう。

そもそも歌舞伎は江戸時代、庶民に支持されて発展を遂げました。それが明治時代になり、明治演劇改良運動というのが起きたんですね。江戸幕府が倒れて長い間の鎖国がなくなったことで、海外から来るお客様ともお付き合いしなければならなくなった。
諸外国では大切なお客様を招いた際に、オペラだのバレエだの劇場にご招待して、自国の文化にふれて頂いてもてなしていたんですが、じゃあ我が国に何があるかといったら、歌舞伎しかない。しかし歌舞伎は庶民の間で育った文化だから大衆的で、エロ・グロ・ナンセンスみたいな高尚とは言えない部分もある。このまま海外のお客様に見せるわけにはいかないということで、どんどん高尚化していったんですね。劇場の床も赤い絨毯を敷いたり。もちろん、お洒落して出かける場所としてはいいことだと思いますけど。 劇場が社交場化した時期もあるんですよ。お見合いに使ったりもしたんです。こっちの桟敷とあっちの桟敷に座って、向こうの桟敷にいる方、どう?とか言って。目の前の舞台に男前の役者がいるんだから、いい男に見えるわけがないんですけどね。どうやらこの頃から、歌舞伎が近づき難いものになっていったのかもしれませんね。

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劇場の造りも非常に豪華で格式高いイメージがありますね。 舞台も花道があったり、やはり他の演劇とは違った空気感があります。

劇場の構造が変わったのもこの時期です。プロセニアム・アーチと言うんですが、ここからここまでが舞台、ここからが客席、というように舞台と客席が明確に分かれたんです。 江戸時代の絵図に描かれている芝居小屋を見てみると、舞台の周囲をお客さんが囲んでいて、時には舞台の上にも客席があったんですね。ですから、舞台で役者が一所懸命わぁーっとやると、お客さんがわぁーっと盛り上がって、それがまた役者に伝わっていく。双方が興奮状態で最高潮になったところで、幕がチョーンと下りるといった感じだったんでしょうね。
十八代目勘三郎さんとそういった話をしていたら、江戸時代の芝居小屋を作ってみたいな、そういうところで演ってみたいなって話になったんです。そうしたら江戸時代の中村座の舞台の図面がそのまま残っていたんですよ。それを元にしてできたのが平成中村座です。実際に演ってみたら、勘三郎さんは「やっぱいいなあ」って言ってね。舞台と客席が一体となって。お客さんの息づかいが感じられるんでしょうね。

塚田さんは平成中村座の2004年ニューヨーク公演から実行委員長を務められていて、今夏もニューヨーク公演がありました。海外での反応はいかがでしたか。

この7月のニューヨークの「リンカーンセンター・フェスティバル」では、平成中村座は「怪談乳房榎(かいだんちぶさのえのき)」を上演しました。ニューヨーカーに大受けでしたね。 中村勘九郎が三役しているんですが、その中の二役うわばみ三次と下男正助がすれ違う場面があって、二人が花道ですれ違いざまに入れ替わる、早変わりの場面があるんです。アンビリーバブルって言ってね。彼らはブロードウェイでミュージカルを観るように、知識がなくても身構えず、感性で楽しんでいるんですね。

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塚田さんの著書『歌舞伎・ザ・エンターティメント』(扶桑社文庫)にも“歌舞伎は理屈で観てはいけません”と書かれていますね。

『青砥稿花紅彩画』(あおとぞうし はなの にしきえ)という演目に、「白浪五人男」の稲瀬川勢揃いの場という場面があります。白浪とは盗賊のことで、5人の盗賊が結党して悪事働いて、これ以上江戸にいると捕まるからバラバラになって逃げようとなるんです。じゃあ最後に顔を合わそうってことになる。 理屈から言ったら、そういう状況だから目立たないような黒い衣装着て、そおっと集まって、“じゃあ元気でな”と別れるところなんだけど。5人が揃いの派手派手しい衣装で雨も降ってないのに傘をさして、さらに傘には大きな文字でご丁寧にも「志ら浪」って書いてある。これはどうしてこんなことしているのかって、理屈では説明できないでしょう。ですから、最初から詮索せずに、衣装や音楽の美しさ、七五調のせりふの心地よさなど、理屈ぬきに楽しんでいただきたいですね。
歌舞伎は見た目も言葉も現代の生活とかけ離れていますが、人間の心は今も昔も変わりないでしょ。食べ物を食べたら美味しい。女性が男性を好きになる、男性が女性を好きになる。キスしたらよかったとか。理屈じゃないでしょ。感性で楽しんでと言いたいですね。日本人だから、わからないから恥ずかしいとか、まず学ぼうとかじゃなくて。気楽にいきましょう。

塚田圭一(つかだ・けいいち)
学生時代から歌舞伎にいそしむ。その後、菊五郎劇団を経て、フジテレビ開局時に入社。平成中村座の2004年ニューヨーク公演から実行委員長。現在、歌舞伎のイヤホンガイドを務める。花道会代表。
■花道会
歌舞伎愛好会、歌舞伎研究会として歌舞伎の初心者から通まで、誰もが楽しめる会です。ご贔屓の俳優さん、観劇の感想など語り合える場を作りませんか。
http://hanamichikai.jp/index.html
■イヤホンガイド
イヤホンガイドは、音声の「同時解説」で舞台の進行に合わせてあらすじ・配役・衣裳・道具・歌舞伎・文楽の独特な約束事などを、タイミングよく、楽しくご説明いたします! 歌舞伎、文楽初心者の方には必需品です。歌舞伎ツウの方にもイヤホンガイドファンが多く、ご愛好いただいております。
http://www.eg-gm.jp/e_guide/

 

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