バックナンバー:2011年11月

【10ブックスアナライズ vol.04】

時を重ねるごとに人は死ぬことを意識し、死ぬとはどういうことかに向き合うようになります。死を明確に意識し、どういうことを意味するのかをしっかりと学び、備えることが大切だというのが3つ目の着眼です。

今年87歳になる吉本隆明さんは、『老いの幸福論』で次のようなことを述べています。「死とは何か、死ぬとはどういうことか、自分にとって死とは何だ…そういうことは、だれも一度は考えるのかもしれません」。ご自身も病と闘う中で、死と向き合いながら生き続けていることがわかります。「死の恐怖はどうしたら除けるかという意味での死の準備だというのなら、これまた自分の理解の仕方ですけど、死の恐怖というのはなくならないと思います」と述べ、吉本さんらしい死に対する知見を表現しています。この本は2001年に単行本『幸福論』として出版されたものを2011年に新書版として編集されたものです。新書版発刊にあたってのあとがきには、10年の歳月を思わせる一文があり、現在の正直な気持ちが見てとれます。「老いについていえば、生と死の分かれ目に近づいているとは言えると思います。でも、これが幸福なのか不幸なのかはわかりません。もっと生きていたいとか、まだやりたいことがあるとか、心残りはあるだろうけど、だからといって、それはそんなに不幸なことだろうか、と思うんです」。

50年以上の付き合いのある瀬戸内寂聴さん梅原猛さんの対談集『生ききる。』は、東日本大震災の直後に、災害についてはもちろん日本の歴史や文化についても考察し、日本のこれからのあるべき姿を問う、というねらいで出版されました。2010年11月から背骨の圧迫骨折で療養中だった瀬戸内寂聴さんは、本も読めず、ものも書けない状態でいましたが、大震災のあった3月11日、津波や原発事故など次々と報じられるニュースに動転し、気がついたら萎えた脚でベッドの脇に立ち上がっていたそうです。二人は東北から未来を学び、震災後のめざすべき日本、よみがえりの思想などを語り尽くした末、死への思いを最後に記しています。瀬戸内さんは、「私はね、もう90歳のおばあちゃんになって、恐いものがないんですよ。それは強いです。いまさら何も恐くない。死ねばいいんだろうという気持ち。度胸がいいんですよ」と、死へのきっぱりとした覚悟をのぞかせます。一方の梅原さんは、「死ほど、恐いものはない。私たちは死を前にしている。他に恐ろしいものはない。それで言うべきことははっきり言い、すべきことはさりげなく笑ってしようではありませんか」と死と真正面に向き合って生きる姿勢を示しています。

自らの病を公表し、死に至るまでの自身のことを綴ったのは、作家・エッセイスト・絵本作家の佐野洋子さんです。乳がんのため72歳で亡くなるまでの心模様を書いた作品が『死ぬ気まんまん』です。「私は今が生涯で一番幸せだと思う。70歳は、死ぬにはちょうど良い年齢である。思い残すことは何もない。これだけはやらなければなどという仕事は嫌いだから当然ない。幼い子どもがいるわけでもない」とストレートな表現で死に向かうご自身の気持ちを表している佐野さん。それでも病魔による痛みにかなり苦しむ様子も同時に描かれており、潔さを見せながらも静かに闘う姿がありました。最後に「私にとって一番大事なものは何だったのだろう。『情』というものだったような気がする」と人生を振り返ります。

『スウェーデンにみる「超高齢化社会」の行方 義母の看取りからみえてきた福祉』を書いたビヤネール多美子さんは、88歳で生涯を閉じた義母の晩年を描く中で、「最後まで自分のことは自分で決める」スウェーデン式の高齢者福祉の有り様に触れています。スウェーデンでは、老後はできるだけ長く自宅に住み続けられるようにというのが基本的な方針ですが、義母一人での暮らしが難しくなり、84歳で高齢者住宅へ引越しをします。どこへ入居するのかは本人が決めるため、周囲の家族は基本的には見守るだけ。どこのお墓に入りたいかも義母の「早くパパのところへ行きたい。骨は同じ墓に埋めて」という申し出を受け入れるのです。多美子さんは、自分の母親が希望しない老人ホームに無理やり入居させられ、86歳の時に認知症で亡くなった姿と比較しながら、本人主体のスウェーデンの仕組みを受け入れていきます。義母が意識不明の状態となって病院にもいられなくなった時でさえ、「幸か不幸か、本人は自分の運命を他人にゆだねたまま、静かに眠ったままだ。それにしてもこのような場合、日本でわたしが母のためにやったように、家族が親の行き先を血眼になって探す必要がスウェーデンではないことは、本当にありがたいことだ」とその時の心情を記しています。「延命措置は不要」という本人の意思に従って、心臓や肺に負担のかかる点滴までも外して、最期の時を迎える姿。そこには、自らの意志によって生き、そして死ぬという人間本来の在り方が示されているのではないでしょうか。

<分析した10冊の本>

①『隠居大学 よく遊びよく学べ』 天野祐吉編 朝日新聞出版

②『みっともない老い方 60歳からの「生き直し」のすすめ』 川北義則 PHP新書

③『50代・60代は第二の適齢期 婚活、離活、老後の備え』 岡田信子 文藝春秋

④『老いる覚悟』 森村誠一 ベスト新書

⑤『行動することが生きることである』 宇野千代 集英社文庫

⑥『人生、これからや!』 コシノジュンコ PHP研究所

⑦『老いの幸福論』 吉本隆明 青春出版社

⑧『生ききる。』 瀬戸内寂聴 梅原猛 角川ONEテーマ21

⑨『死ぬ気まんまん』 佐野洋子 光文社

⑩『スウェーデンにみる「超高齢社会」の行方』 ビヤネール多美子 ミネルヴァ書房

最後まで社会の役に立つ人間でいようという強い覚悟を持って生きることが、より重要になるという点が2つ目に得られた着眼です。新しいことへ挑戦する力や、何かに向かって行動する力を最期の瞬間まで持ち続けることが、晩年の時間をより有意義なものへと変えてくれるのです。

「死ぬまで明日の可能性を追い続ける永遠の狩人でありたい」と著書『老いる覚悟』の中で述べているのは、森村誠一さんです。「老いても重要なことは、常に自分の目標を持ち、未知に挑戦していく心である。未来を見つめ続けている人は若者と同じ『志』を持っている。新しい経験が常に求める『志』があれば、精神的にも肉体的にも若さを保つことができる」という力強い言葉からは、老いというものを微塵も感じさせません。それどころか、「もういいと思ったらそこでおわりである」「自分は歳をとったな、年寄りになったな、と思った瞬間から老いの坂を転がりはじめる」とまで言い切っています。本書の最後は「大それたことを願う必要はない。老いて一見、平凡な毎日の繰り返しであっても、今日は昨日とは違う一日にするぞという覚悟が、人生に活気と彩りを与えるのである」という言葉で結ばれ、常に覚悟を持って生き続けることの大切さを教えてくれています。

98歳でその生涯を閉じるまで宇野千代さんは、『行動することが生きることである 生き方についての343の知恵』の中で、「意識を明確に持つこと」の大切さを述べています。90歳を迎えた頃、「自分は90歳になった」とはっきり意識することで、日々の生活が大きく変化したことに触れ、「何事も衣冠束帯。私はいま何を考えているか。何を食べているか、何をしているか、あの腰の紐をきゅっと締めて、背後の布をうんと膨らませて生活している、衣冠束帯である。意識また意識である」と指摘。晩年に至るまで、旺盛な活動を続けた宇野さんらしい言葉です。「私もやがて死んでいくに違いないが、おかしいことに、私は自分がやがて死んでいく、と思ったことが一度もない。いつまでも生きているもののように思って、今日から明日、明日からあさってと暮らしている」という表現からは、常に前を見据えて、次々と行動にうつす一生であったことがうかがえます。

ファッションデザイナーである「コシノ3姉妹」を育てあげた小篠綾子さんの人生は、誰にも負けないほどの行動力に満ちたものでした。次女のコシノジュンコさんが書いた『人生、これからや!うちのお母ちゃん、小篠綾子のだんじり魂』を読むと、常に「これからや!」の精神を持ち続けた女性であったことがわかります。「岸和田だんじり祭り」で有名な大阪府岸和田市で生まれ育った小篠綾子さんは、「とにかく豪快で働き者」でした。21歳で「コシノ洋装店」の看板を掲げ、32歳の時に戦争で夫を亡くし、そこからコシノ三姉妹を女手ひとつで育てあげたのです。綾子さんのアクティブな一面がうかがえるエピソードとして「卒寿」のお祝いのシーンがあります。この時のために「六本木男性合唱団倶楽部」がお祝いにかけつけると、その歌声に感動しとても喜んだそうです。そして出た言葉が「合唱団、楽しそうやなあ。わたしも入れてもらえへんか?」。そのまま「神楽坂女性合唱団」のメンバーとなったのです。卒寿にして躊躇なく新しいことへトライする「人生、これからや!」の題名通りの生き方ですね。印象に残る言葉は「過去は過去。昔の自分は昔の自分。そんなもんはどうでもええ。大切なのは『いま』と、『これからの道』なんや」です。前を向いて力強く生き続けてきた綾子さんの心意気が、ここに凝縮されています。

<分析した10冊の本>

①『隠居大学 よく遊びよく学べ』 天野祐吉編 朝日新聞出版

②『みっともない老い方 60歳からの「生き直し」のすすめ』 川北義則 PHP新書

③『50代・60代は第二の適齢期 婚活、離活、老後の備え』 岡田信子 文藝春秋

④『老いる覚悟』 森村誠一 ベスト新書

⑤『行動することが生きることである』 宇野千代 集英社文庫

⑥『人生、これからや!』 コシノジュンコ PHP研究所

⑦『老いの幸福論』 吉本隆明 青春出版社

⑧『生ききる。』 瀬戸内寂聴 梅原猛 角川ONEテーマ21

⑨『死ぬ気まんまん』 佐野洋子 光文社

⑩『スウェーデンにみる「超高齢社会」の行方』 ビヤネール多美子 ミネルヴァ書房

【10ブックスアナライズ vol.04】

「長く生きた人だからこそ見えてくる知恵を書籍から読み取ること」が、10ブックスアナライズの目的です。10冊の本から抽出したポイントを3回に分けてお届け致します。

分析の対象とした10冊は、文章の最後をご参照ください。

「ある一定の年齢に達したら、一度人生をふり返るべきではないか」。今回の10ブックスアナライズで得られた1つ目の着眼です。「60歳」「定年退職」という何かの節目に、これまでの時間をふり返って人生をリセットしてみると、次の段階へスムーズに進んでいくのかもしれません。

天野祐吉さん編集『隠居大学』は、2010年6月から開かれたオープンセミナー「隠居大学」の内容をまとめた書籍です。講師は、横尾忠則さん、外山滋比古さん、赤瀬川原平さん、谷川俊太郎さん、坪内稔典さん、安野光雅さんの6名がつとめ、「隠居」をテーマにそれぞれが語りました。谷川俊太郎さんが、人の加齢について興味深い指摘をしています。「人間の加齢を考えるとき、樹木の年輪にたとえて考えるのがわかりやすいと思っています。中心に〇歳の自分がいて、一歳、五歳…とだんだん経験とともに年輪が増えていき、いちばん外側に自分がいる。だからどんな年齢の老人の中にも、〇歳や三歳の幼児がいる」。そして「働き盛りの中年期を経たら、今度は積み重なってきた年輪が一枚一枚はがれていく。つまり年をとればとるほど、中心にもといた自分、幼児の自分に戻れるのではないか」と述べています。年輪がはがれ始める時が、人生をふり返るタイミングにあたるのかもしれません。外山滋比古さんは、「定年退職したら隠居できると思っているかもしれないけど、そうはいかない」と語っており、「サラリーマンの場合は、それまでの価値観を、いっぺんひっくり返さないといけません」と、再スタートに向けた心の整理の大切さを訴えています。

「60歳になったら、『昔はよかった』はやめて、『素』の自分で現在を愉しもう」と主張するのは川北義則さんです。著書『みっともない老い方 60歳からの「生き直し」のすすめ』に「第二の人生を迎える年齢になったら、一度はしておくといいと思うことがある。それは、自分のそれまでの人生の“棚卸し”だ」と記しており、今までの来し方や、前半生を総括することの必要性を説いています。一つの方法として、長寿の祝いとして最初に訪れる「還暦」の復活をあげており、「生まれ変わる」ことを強く意識する習慣を生かすことを奨めているのです。「還暦」を「高齢者としての烙印を押されたようだ」と敬遠する人もいますが、人生のシナリオを見直す一つの機会になるのかもしれません。

71歳で再婚した岡田信子さんは、著書『五十代・六十代は第二の適齢期 婚活、離活、老後の備え』の中で、「中高年の関心事は健康やお金のことに集中しがちだが、婚活・友活こそが人生に元気とうるおいを与えてくれる何よりの妙薬だ」と記しています。51歳の時に離婚してシングルアゲインとなり、無我夢中で働いてようやく61歳で手にした老後を過ごすマンション。岡田さんはこの時に一度立ち止まって考えたのです。「果たしてこのまま一人で生きていくのか」と。答えは「No」でした。気持ちが決まってからは「婚活」に邁進し、70代で見事大輪の花を咲かせました。毎日を積み重ねながら走り続けていると、立ち止まるのはなかなか難しいもの。小さな変化が日常に訪れた時に現在の自分を客観視し、今後の生活をシミュレーションしてみると、次のステップへ進むのに本当に必要なものが見えてくるのです。

<分析した10冊の本>

①『隠居大学 よく遊びよく学べ』 天野祐吉編 朝日新聞出版

②『みっともない老い方 60歳からの「生き直し」のすすめ』 川北義則 PHP新書

③『50代・60代は第二の適齢期 婚活、離活、老後の備え』 岡田信子 文藝春秋

④『老いる覚悟』 森村誠一 ベスト新書

⑤『行動することが生きることである』 宇野千代 集英社文庫

⑥『人生、これからや!』 コシノジュンコ PHP研究所

⑦『老いの幸福論』 吉本隆明 青春出版社

⑧『生ききる。』 瀬戸内寂聴 梅原猛 角川ONEテーマ21

⑨『死ぬ気まんまん』 佐野洋子 光文社

⑩『スウェーデンにみる「超高齢社会」の行方』 ビヤネール多美子 ミネルヴァ書房

日野市の旧多摩平団地の一部が、高齢者向け住宅「ゆいまーる多摩平の森」にリニューアルしました。すでに全体の約7割の入居が決まっており、「団地再生のモデル」として注目を集めています。9月29日には入居予定者を招いての記念式典が開かれました。すでにニュースでも取り上げられているので、ご覧になった方も多いかもしれません。

都市再生機構(UR)は、旧多摩平団地の5棟を対象にした再生案を公募し、選ばれた3つの民間事業者が団地再生にトライしました。すでに3月に若者向けのシェアハウスが、7月にファミリー向けの菜園付き住宅が完成し、今回の「ゆいまーる多摩平の森」の開業で事業は一段落です。

「ゆいまーる多摩平の森」のリニューアルを行ったのは、高齢者向け住宅を運営している「コミュニティネット」(中央区)。改修には6億円余りを要したものの、新たに建設する費用と比べると、7割程度におさえられたといいます。

常駐のスタッフが安否確認を行ったり生活相談にのったりする上に、緊急の際には病院まで同行もしてくれます。各部屋にも通報装置が設置されており、日野市や八王子など多摩地域だけでなく、東京都の区部から入居する人もいるそうです。

団地再生への取組みは様々な地域で始まっています。旧多摩平団地の場合は、3つの異なった事業者が手がけたことで、若者、ファミリー、高齢者が同じ敷地で生活をすることとなり、世代間の交流をはかりながらの暮らしが実現することでしょう。団地再生の一つのモデルとして注目していきたいと思います。(PEN 11/1号 東京新聞 9/30)

»続きを読む
長寿の森研究会とは
会員登録
研究会主宰 谷口正和 プロフィール